夫婦仲が修復できることも

この事例のように、受験がきっかけとなって夫婦関係が悪化するケースは少なくありません。

「夫婦が不仲で……」という相談を詳しく聞いてみると、受験期の子どもがいて、その方針が合わないことが不仲の発端だったということもよくあります。

ただ、受験に熱を入れすぎたあまりに不仲になる場合は、いわば一時的に沼にはまっているような状態なので、そこから離れると冷静になって夫婦仲が修復できることがあります。

軽い気持ちで始めたのに前のめりに

特に中学受験は、本人が強く希望していなくても、親の意思や周囲のママ友の影響などで受験を決める家庭も多いようです。

また、中学受験は、親がどれだけ付きっ切りになれるかが結果に関わる面もあるといわれているため、軽い気持ちで始めた受験勉強だったはずが、自分の受験以上に前のめりになって沼にはまってしまう人もいます。

しかし、子どものテストや受験の結果は決して親の思い通りにはなりません。

理想の中学に入れるために子どもに努力をさせているのに、理想通りの結果が出ない……。そんな時に、子どものせい、配偶者のせいにして、暴言や暴力に走ってしまう人がいるのです。家庭内にとどまらず、塾や学校にクレームを入れて、周囲と険悪になるケースもあります。

A夫さん夫妻は受験の前に問題を解決できましたが、対応が遅ければ、重大な影響を及ぼしてしまうこともあります。特に子どもの場合は、家庭内でのストレスが体調に顕著に影響します。

A夫さんの妻は、せっかく入った塾だからと、そこに通わせることばかりに固執していましたが、別居によって一度その気持ちをリセットしたことで、子どもへの態度を反省することができました。

両親の不仲で一番影響を受けるのは子ども自身です。子どもの人生のために前のめりになった結果、子どもの人生に悪影響を与えてしまう……。「受験沼」にはまりすぎてそんな本末転倒な事態にならないよう、受験の方針は、子どもの意思を尊重して、夫婦で話し合って決めてほしいと思います。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。