辞任会見で見せた涙は「兄貴に電話で怒られたから…」

元町長への調査が始まった直後の2023年7月には、役所の中に怪文書が出回った。そこには「文春は民間の雑誌業者で公的機関ではありません」「情報を外部(文春)にリークした職員はハニートラップの疑いがあります」「(密告は)地方公務員法第34条の守秘義務違反になります」「(密告者には)警察の事情聴取が待っています」といった言葉がならぶ。

これらのフレーズのみならず、書式やフォントも元町長特有のものだったらしい。わざとなのか詰めが甘いのかわからないが、自分が脅せば調査を止められると考えたのだろう。基本的に、セクハラ、パワハラのどちらもだが「権力をふりかざす」ことが特徴である。部下を「自分より下」、なんなら「自分の所有物」のように勘違いしているのだ。

元町長は2月28日の辞任会見で泣いていたが、その理由は「兄貴から電話がかかってきて怒られた」から。反省や悔恨からの涙ではない。自分より偉い肉親=お兄ちゃんから叱られたのが悲しかったのだ。すべてを上下関係でとらえる価値観に根ざすという点で、パワハラ、セクハラは、現代に生き残る家父長制のゾンビのようなものである。

涙を拭う小島町長
写真=時事通信フォト
記者会見で涙を拭う岐阜県岐南町の小島英雄町長=2024年2月28日、同町

職務を超えた要求をすれば、パワハラになる可能性が

厚生労働省は「職場におけるハラスメントの防止のために」というパンフレットの中でパワハラをこう定義する。①優越的な関係を背景とした言動であって②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるもの。つまり、上下関係を前提として、職務の範囲を超えたことを行い、働く人が嫌な思いをする。それがパワハラなのだ。最後に元町長のパワハラ事例を見てみよう。

パワハラ行為

・始業時間よりも早く出勤させる。また、時間外手当をつけない
・職員の提出してきた文書を、放りなげる
・選挙の際に自らを支持していたかどうかで、接し方や人事配置での配慮を変える
・ランチの追加メンバーとして、若い女性職員だけを頻繁に誘う
・自分のお気に入りの女性職員と話している男性職員がいたら、叱る
・気に入らない年度任用職員の更新を拒絶し、辞めさせる

これらはすべて現代ではハラスメントにあたる行為だ。きっとこの記事を読んでくださっているのは、そもそもの意識が高い方だと思うのだが、万が一、思いあたるふしがあれば、さっと改めていただきたい。

人は知ることで、変わることができる。また、あなたが変わることで、周囲の人――若手社員、友人、妻、子どもなど――のあなたへの接し方も少しずつ変わっていくはずだ。

職場においても、「始業時間よりも早く出勤させる」などは、レガシーな大手企業ではいまもままあることだとも聞く。少子化が止まらない現代日本において、若い働き手をつなぎとめるには、こういった細かな慣行を是正していくことも重要だろう。