子供の前での夫婦喧嘩はOKだが…

子育てにおいては、両親の夫婦仲が円満であることがもちろん理想です。

とはいえ、夫婦喧嘩をしてはならないわけではありません。

喧嘩をしているとき、人間の前頭葉はめっぽう活性化しています。お互いに相手を論破しようと、さかんに思考力を働かせているからです。ですから両親が喧嘩をしても、そばで見ている子供にとっては「そうか、こう反論できるな」と学ぶ機会になると言えます。

ただし例外もあります。夫婦喧嘩のテーマが「子供のこと」であった場合、それは子供を非常に苦しめます。夫婦間で子育ての方針に違いがあっても、子供のいる前では争わないようにしましょう。

成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)
成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)

そのほかのことなら、隠れて争う必要はありません。さらに言えば、隠れて争うこと自体が、子供に悪影響を及ぼします。一番良くないのが、子供の前でだけ仲良しなふりをすることです。実は夫婦仲は冷え切っているのに、「子供のために」円満を装う夫婦がよくいますが、子供は動物的な勘で、不穏な空気を感じ取ります。

食卓についているとき、一見なごやかな会話が交わされつつも、両親が決して目を合わせない……といったことに気づくと、子供は強い不安を感じます。そこに親の「ウソ」を感じ取り、不信感も持つでしょう。

そんなストレスを与えるくらいなら、「お母さんとは意見が合わないんだ」「お父さんとは考え方が違うの」と、きちんと伝えましょう。

もちろん子供は傷つくでしょう。しかしそれも「社会」を知る大事な学びです。家庭という社会の中でも「合わない人間関係」というものは発生しうる、ということをそのとき子供は知るのです。

子供の前で喧嘩をする夫婦
写真=iStock.com/xijian
※写真はイメージです

「子供のために離婚しない」という選択はすべきでない

「子供のために」離婚しない、といったこともするべきではありません。一般の社会では、合わない会社ならば辞めて転職するのが自然ですね。誰かのためにその会社にい続ける、などということはないはずです。

誠実に経緯を伝えて、「お父さんとお母さんはもう一緒には暮らせないんだ」と伝え、子供の思いを受け止め、「ごめんね」と言いましょう。

辛いけれど、仕方のないことが世の中にはある。子供は心を痛めながらも、そのことを学ぶでしょう。

成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表

小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。