不登校だった高2女子の変化
ここで、逆境のなかでレジリエンスを飛躍的に高めた女の子の話を一つ、紹介しましょう。
その子は高校二年生。といっても、長らく高校に通えていませんでした。彼女が私が主宰する親子支援事業「子育て科学アクシス」を訪れたときは、不安が強く、外に出るのもやっと、という状態でした。
ご両親と本人から話を聞いていく過程で、最初はほとんど口を開かなかった彼女が唯一、自分から話したのが「アニメのキャラクター」の話でした。
もともとお父さんが昭和のアニメファンで、小さいころはしょっちゅう二人でアニメのショーに行っていたそうです。学校に行けなくなった彼女は、そのことを思い出し、昭和アニメのキャラクターを模写することに燃えました。
ご両親は、「学校にも行かないで絵ばっかり描いて」と不安顔。しかし本人は次々模写を続けて、いつの間にか自分でストーリーを考え、スピンオフの物語を書いて、コミケに出店するようになりました。
なんとそこに「ファン」もつくようになり、そのことで彼女はどんどん自信がついてきました。それとともに、自律神経の活動量など、医学上の数値も急激に好転しました。さらには「やっぱり高校は出ておかないと」と自ら言いだし、通信制の学校に転校すべく準備を開始。この前進ぶりには、ご両親もただただ驚くばかりでした。
彼女を変えた「好きなこと」と「人とのかかわり」
なぜ、ここまで劇的な変化が訪れたのでしょうか。やはり第一には「好きなこと」を思い出し、体験したこと。ほかの人にはない知識やスキルが自分にはあった、という再発見が、彼女に自信を取り戻させました。
もう一つは、コミケでの「人との関わり」でした。SNSで発信した彼女の絵に、すっかりファンになって、わざわざ地方からコミケに訪ねてきた方と、初対面なのにとても楽しく話ができたそうです。
「人とコミュニケーションがとれた」という達成感、そして「ありがとう」と言われた安心感と感謝。それは今後も、彼女と「外の世界」を結び付ける紐帯となるでしょう。
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。