現状を不満に思いながらも現状維持から抜け出せないのはなぜなのか。臨床心理学者のソフィー・モートさんは「人は、最初の考えを貫いてした決断で悪い結果を招いたときより、考えを改めたあとに『間違った決断』をしたときのほうが、長く自分を責める傾向がある。いかにも人間らしいこの特徴が、意思決定を下手くそにしている」という――。(第2回/全4回)

※本稿は、ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

仕事を辞めたいのに辞められない

「今の仕事を始めて5年になります。設計・製造の仕事自体は大好きで、最初の数年間は最高でした。小さなチームだったから自分の裁量で選択ができて、給料もよくて、チャンスも公平に与えると約束されていました。ところがその後、会社が急成長すると、得意先とのつながりが薄くなり、公平にチャンスをもらえるどころか、僕らは機械の歯車みたいになってしまいました。新しい上司はみんなを、いえ、とくに僕を不当に扱っています。

パートナーからはずっと『楽しそうじゃないね』と言われていて、僕も半年ごとに『辞める』と口にするのですが、何かが起こって、そう、辞めていないんです。パートナーは僕が一生懸命働いていることを知っているから、最初は僕の代わりに会社に腹を立てていましたが、今ではどうやら、辞めない僕にムカついているようです。一体どうすればいいでしょう? 辞めたいのは確かだし、辞めてどうするべきかもわかっているのですが、飛び出すことができそうにないんです」

――ジャマール(29歳)

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またパートナーに捨てられたらどうしよう

ジャマールがセラピーに来たのは、長くつき合っている男性との同居を目前にしていた頃だ。普通なら「夢がかなった」と感じる状況なのに、ジャマールは悪夢にうなされていた。彼にはうつ病の経験があり、数年前に最悪の状態のときに、「とても一緒にいられない」と当時のパートナーに捨てられた。新しいパートナーと同居して、またそう思われたらどうしよう?

この問題に対処しようと、私たちは鬱病の再発防止に努めると同時に、彼のどんな考えが不安と結びついているのか、どんな考えが問題をはらんでいるのかを明らかにしていった。

先ほどジャマールが話していたことも、彼の恐れを引き起こしている多くの事柄の一つにすぎない。

この状況が少々目立っているのは、ジャマールがパートナーから「セラピーで話すべきだ」と勧められ、最初に話してくれた事例だからだ。ジャマールは、パートナーにそう勧められたことを「彼が腹を立てていて、そのうち出ていってしまう証拠だ」とおびえていた。そこで私たちは、「考えを裁判にかける」というセラピーでおなじみの行動を取った。ジャマールの考えを裏づける証拠と、覆す証拠を探すのだ。そういうわけで、ジャマールは、帰宅したパートナーに思いきって尋ねてみた。「怒って出ていくつもりなのか?」と。

すると案の定、パートナーは少しも怒っていなかった。ただ、ずっと不満には思っていた。ジャマールはなぜ、望み通りの行動を取らないのだろう? と。