※本稿は、ソフィー・モート『やり抜く自分に変わる1秒習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
仕事を辞めたいのに辞められない
「今の仕事を始めて5年になります。設計・製造の仕事自体は大好きで、最初の数年間は最高でした。小さなチームだったから自分の裁量で選択ができて、給料もよくて、チャンスも公平に与えると約束されていました。ところがその後、会社が急成長すると、得意先とのつながりが薄くなり、公平にチャンスをもらえるどころか、僕らは機械の歯車みたいになってしまいました。新しい上司はみんなを、いえ、とくに僕を不当に扱っています。
パートナーからはずっと『楽しそうじゃないね』と言われていて、僕も半年ごとに『辞める』と口にするのですが、何かが起こって、そう、辞めていないんです。パートナーは僕が一生懸命働いていることを知っているから、最初は僕の代わりに会社に腹を立てていましたが、今ではどうやら、辞めない僕にムカついているようです。一体どうすればいいでしょう? 辞めたいのは確かだし、辞めてどうするべきかもわかっているのですが、飛び出すことができそうにないんです」
――ジャマール(29歳)
またパートナーに捨てられたらどうしよう
ジャマールがセラピーに来たのは、長くつき合っている男性との同居を目前にしていた頃だ。普通なら「夢がかなった」と感じる状況なのに、ジャマールは悪夢にうなされていた。彼には鬱病の経験があり、数年前に最悪の状態のときに、「とても一緒にいられない」と当時のパートナーに捨てられた。新しいパートナーと同居して、またそう思われたらどうしよう?
この問題に対処しようと、私たちは鬱病の再発防止に努めると同時に、彼のどんな考えが不安と結びついているのか、どんな考えが問題をはらんでいるのかを明らかにしていった。
先ほどジャマールが話していたことも、彼の恐れを引き起こしている多くの事柄の一つにすぎない。
この状況が少々目立っているのは、ジャマールがパートナーから「セラピーで話すべきだ」と勧められ、最初に話してくれた事例だからだ。ジャマールは、パートナーにそう勧められたことを「彼が腹を立てていて、そのうち出ていってしまう証拠だ」とおびえていた。そこで私たちは、「考えを裁判にかける」というセラピーでおなじみの行動を取った。ジャマールの考えを裏づける証拠と、覆す証拠を探すのだ。そういうわけで、ジャマールは、帰宅したパートナーに思いきって尋ねてみた。「怒って出ていくつもりなのか?」と。
すると案の定、パートナーは少しも怒っていなかった。ただ、ずっと不満には思っていた。ジャマールはなぜ、望み通りの行動を取らないのだろう? と。