抜け出すための考え方

だめなのは「負担を避けるあの人」ではなく「負担を強いてくる構造」です。そう考えると、「互いの足を引っ張りあうのではなく、構造を見通す」という道が見えてくるのではないでしょうか。このシーンの登場人物たちは対立しているように見えますが、実は同じ構造のなかでともに抑圧されており、社会を変えるニーズを持っている人たちなのかもしれません。

「こういわれたら、こういい返せばよい」というような簡単な対処法はありません。でも、引いた視点から自分が巻きこまれている状況を見すえ、どのような仕組みのなかでみんながしんどくなっているのかを考えることはできます。「みんなイヤだけど引き受けている」のはなぜでしょう。みんなが引き受けなくなったら、困るのはいったいだれでしょう。そもそもPTAとは、いったい何のための、だれのための組織なのでしょう。

「みんなイヤだけど引き受けている」なら、その「みんな」と監視しあうのではなく連帯し、一緒に制度を変えるという方向性だってあります。実際に、PTA改革が進められ、活動内容をしぼって任意参加にするといった改革が行われるケースも増えてきています。

もっと知りたい関連用語

【PTA(Parents & Teachers Association)】

2010年代以降、PTAの問題は、メディアやSNSなどを通じて知られるようになりました。たとえば、共働き世帯のほうが優勢なのに平気で平日の昼間に設定される会合。貴重な有休を使って学校に集まり、折り紙を折っているワーキングマザーはめずらしくありません。そして抑圧的な役員決め。免除してもらうために「病気」「介護」などの事情を会員の前で話させるところもありますが、個人情報保護の観点からNGです。極めつけが、「任意だけど実質的には強制加入」という慣習。法的には何の根拠もありません。

貴戸理恵『10代から知っておきたい あなたを丸めこむ「ずるい言葉」』(WAVE出版)
貴戸理恵『10代から知っておきたい あなたを丸めこむ「ずるい言葉」』(WAVE出版)

近年では、任意加入の原則を明示したり、活動をスリム化して「やりたい人だけがやる」とするなど、改革事例も見られるようになりましたが、課題が多いのも現実です。

また、PTAは、各学校単位のPTAの上に地域ごとの連合会があり、さらに上に日本PTA全国協議会がある、というピラミッド型の組織で、そうした構造もさまざまな問題をはらんでいます。

そのひとつが、お金の問題です。上部団体のPTAは補助金の受け皿になったり、保護者が支払う会費が「上納」されたりと巨額のお金が動くのに、その流れは不透明です。

ジェンダー不平等の問題も深刻です。会員のほとんどが母親なのに、会長や上位団体になるにつれ男性が増えます。母親たちは、子育てと仕事に追われながらPTA役員を引き受け、対外的に発信する場では「長」である男性を立てています。そのうえ「動員」されて興味もないのに参加した講演会で「ぞうきんは手縫いしろ」などといわれた日には、たまったものではありません。

子どもの学校に親が関わることは、大切です。それは学校が地域に開き、多くの人との交流のなかで子どもが学び、育つことを支えるでしょう。そうした環境を整備するためにも、問題を直視し、適切に対応することが求められます。

貴戸 理恵(きど・りえ)
関西学院大学教授

1978年生まれ。関西学院大学教授。専門は社会学、不登校の〈その後〉研究。アデレード大学アジア研究学部博士課程修了(PhD)。著書に『「生きづらさ」を聴く 不登校・ひきこもりと当事者研究のエスノグラフィ』(日本評論社)、『「コミュ障」の社会学』(青土社)などがある。