初夏は茶畑、冬はミカン畑で四つ葉が増える
「雑草は頑張らない」
それが、鳥海さんが気づいたことだ。
鳥海さんは四つ葉のクローバーを探すのが得意である。
その特技を活かして、広い農場のどこに四つ葉のクローバーが多いのか、くまなく調査をした。
その結果、どうだろう。じつに興味深いデータを得ることができた。
初夏には茶畑の周辺で四つ葉が多くなり、冬になるとミカン畑で四つ葉が多くなることが明らかとなったのだ。
どうして、そんなことが起こったのだろう。
おそらくは、こうだ。
茶畑では4月の終わりから5月にかけて茶の収穫をする。そのため、たくさんの人が茶畑に入ったり、軽トラや機械が農道を通る。こうして踏まれることによって、その後の初夏に四つ葉が多くなるのだ。
ミカン畑も同じである。温州ミカンの収穫時期は冬である。そのため、冬の初めになると人がミカン畑に頻繁に入り、軽トラや運搬車も行き来する。こうして踏まれることで四つ葉が増えるのだ。
ミカン畑では、その後、四つ葉は減少するが、春先に剪定作業が行われると、四つ葉が増加した。また、カキ畑でも剪定作業の後に四つ葉が増加した。
あまりにも鮮やかに、作業で踏みつけた後に四つ葉のクローバーが増加する傾向が得られた。「幸せの四つ葉のクローバーは踏まれて育つ」は本当だったのだ。
さらに鳥海さんは、温室の中で育てたシロツメクサに10キログラムの漬物石を乗せて踏み続けて、踏みつけることで四つ葉のクローバーの発生率が高まることを実験的にも証明した。
1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている。著書に、『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか『イネという不思議な植物』『はずれ者が進化をつくる』(ちくまプリマー新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』『身近な生きものの子育て奮闘記』(ちくま文庫)、『たたかう植物 仁義なき生存戦略』(ちくま新書)など。