ジャニー氏は本人が困っていない状態だったのでは

話をジャニー氏に戻しましょう。前述のとおり、性嗜好異常の治療は、本人がさまざまな意味で困っていることから始まります。しかしジャニー氏の場合は、事務所の人たちをはじめ、誰からも責められることはなかったでしょうから、本人は困っていなかった可能性はかなり高いのではないでしょうか。自分の性嗜好性について苦痛も生きづらさも感じていないという状態だった可能性があるわけです。

もしそうだとすれば、そこに治療を受けようというモチベーションは起きませんし、もちろん日本では法制度上、処方可能な薬もありませんから、仮にメリー氏が治療させようと考えたところで、どうしようもなかったでしょう。

性加害をさせないためには、少年たちをジャニー氏のいる場所に泊まらせないなど、物理的に性加害ができない状況にすることくらいしかなかったのではないかと思います。

構成=池田純子

高岸 幸弘(たかぎし・ゆきひろ)
熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授

1997年熊本大学教育学部卒業、1999年熊本大学大学院教育学研究科(心理学)修了。その後精神科病院勤務を経て,2001年より情緒障害児短期治療施設セラピストを務める。2011年熊本大学大学院医学教育部臨床行動科学分野博士課程単位取得退学。2012年4月より関西国際大学人間科学部人間心理学科講師を経て、現在に至る。医学博士。臨床心理士。