牧野は「ズボラに見えるのは違うことに凝り性だから」

牧野の昭和10年ころまでの業績は、『牧野植物学全集』に集大成されている。その全集を編集した園芸家の石井勇義は編集後記で、「牧野先生の厳密なる態度と、容易に纏めようとなさらない御性分とが、この全集にも反映して刊行が遅延し、……世の中に『頼まれた事は少しもやらずに、頼まれない事ばかり夢中になってやる人』という方があるとしたら、その第一人者は牧野先生であろうと思う」と書いている。

牧野はその辺のことを十分に自覚しており、「(石井)君がよく私の癖を吞み込んで、うまく其間を操縦調節したから」この全集をまとめることができたと感謝している。さらに牧野は自分のズボラな性格について、次のように弁明している。

私のズボラは質の悪いズボラではない、一方でズボラと見える時は必ず一方で精励して持ち前の凝り性を発揮して居る時である。丁度、天秤の様なもので、一方の下がった時は必ず一方が上がって居る。其の真相を洞見する明がなく、無闇に私をズボラな人間とけなしつけるのは、其の一斑を見て全貌を知らざる皮相の観察である。(『植物集説』下巻)
俵 浩三(たわら・ひろみ)

1930年東京都生まれ。千葉大学園芸学部卒業、北海道大学学術博士。景観学者、林学者。厚生省国立公園部(1953年、国立公園レンジャー日本第1号)、北海道林務部、北海道生活環境部に勤務したのち、北海道自然保護協会理事(1994~2004年、会長)、専修大学北海道短期大学教授(2001年~名誉教授)等を務めた。1980年に国立公園協会田村賞、1990年に日本造園学会賞(研究論文部門)、2002年に日本造園学会上原敬二賞を受賞。2020年没。