生命保険の営業でノルマを達成できずパワハラにあう

2020年4月の緊急事態宣言で1カ月の自宅待機となったが、賃金はその間も支給された。ところが、仕事が再開するとパワハラが始まった。賃金保障の期間とされた3カ月が過ぎて顧客獲得のノルマが厳しくなり、それが達成できなかったからだ。親戚や知人を必死で勧誘した。それも尽き、査定が下がり、手取りは月22万円に落ち込んだ。

辞めていく同僚も目立った。そんななかで、欠員補充のためか、「採用デー」とされた日には2人組んでハローワークの玄関前に立ち、コロナ禍で失業した女性たちを待ち受けて正社員に誘う当番もあった。こうした勧誘活動を通じ、たくさんの女性が正社員として採用される。営業能力のある女性たちは残るが、周囲を保険に加入させた後、目標達成に苦しんで退職していく女性も多数いた。もう、正社員なら安心という時代ではないんだ、とサトコは思った。

雇用保険の用紙
写真=iStock.com/Yusuke Ide
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パワハラによるうつと生活費の不足のなかでサトコは退職し、その後は知人やハローワークの紹介を頼りに、コンビニの販売員、介護施設の調理員など、短期契約の仕事をつないでコロナ禍をしのいだ。どの職場でも非正社員が大半を占め、低時給で長時間労働が常態化していた。すぐに就職できるのは、やめていく人が多いからなのだとわかってきた。

ハローワーク勤務の女性でさえ3年で雇い止めの社会

多様な雇用形態が入り混じるなかで摩擦も多く、パワハラは付いて回った。その1つである大手の鮮魚専門店では、仕事ができないなどと執拗に言われ、体調を崩して辞職に追い込まれたが、自己都合による退職とされた。

竹信三恵子『女性不況サバイバル』(岩波新書)
竹信三恵子『女性不況サバイバル』(岩波新書)

これでは会社の都合による退職の場合と異なり、すぐには失業手当が出ない。会社のパワハラが原因なのにと疑問に感じつつ、自分が悪いとも思い、抗弁できなかった。「親に圧迫され、結婚後は夫から精神的なDVに遭い、職場でも、何かされると自分がだめだからと責める習慣がついていた」とサトコは振り返る。

それらがやはりパワハラだったと確信できたのは、舞い戻ったハローワークでの相談員の指摘からだった。その相談員も女性の非常勤で、「私たちは、3年たったら実績に関わりなく自動的に全員雇い止めされ、新しく公募しなおされるんですよ」と打ち明けられた。ハローワークは国の機関だ。女性の就労を推進する政府の足元でも? とサトコは絶句した。

自治体の非正規公務員の4分の2は女性だ。民間の非正規も7割が女性だ。「公も民も、女性の多くは回転寿司なんですね」とサトコは言う。

竹信 三恵子(たけのぶ・みえこ)
ジャーナリスト

朝日新聞社記者、和光大学教授などを経て和光大学名誉教授。NPO法人官製ワーキングプア研究会理事。2009年「貧困ジャーナリズム大賞」受賞。『ルポ雇用劣化不況』で2009年度日本労働ペンクラブ賞受賞。2022年『賃金破壊』で日隅一雄・情報流通促進賞特別賞。著書に『ルポ賃金差別』(ちくま新書)、『10代から考える生き方選び』(岩波ジュニア新書)ほか多数。共編著に『官製ワーキングプアの女性たち』(岩波ブックレット)がある。