「だから言ったじゃないの」は禁句

よほどのことがない限り、基本的に、リーダーのやり方は尊重します。洗濯リーダーとなった夫は、洗剤からピンチングハンガーまで、自分の好みに換えました。夫と私では「使いやすさの種類」がかなり違うので、びっくりしました。私の土俵で、「精度を上げろ」と言っても無理だったんだなと、改めて納得。

黒川伊保子『夫婦の壁』(小学館新書)
黒川伊保子『夫婦の壁』(小学館新書)

それでも、私が気になったことは、「リーダーへの提言」として行います。たとえば、なんでも太陽光にさらしたい夫に、「私やおよめちゃんのおしゃれ着や、こたろうさん(孫)のものは陰干しにしてほしいの。紫外線で繊維がかたくなるから」と言ったりしています。

向こうも、自分が洗濯リーダーとはいえ、私が35年も先輩なのを納得しているので、私の提言を、いきなり拒絶はしません。それでも、たまに隠れて太陽光で干すので、せっかくの孫用の今治タオルがごわごわになって、私にクレームをつけられることも。不具合な結果が出れば、次からは徹底してくれます。一度や二度の失敗は、有能なリーダーを育てるための“投資”と心得て(今治タオルは痛かったけど(涙))。

提言を聞いてくれない夫には失敗を体験してもらうのが一番。ただし、気をつけて。

「だから言ったじゃないの」は禁句です。相手の脳に強い反発心が起こって、脳の学びにならないからです。反発心は、すべての脳の学びをチャラにします。「こたろうさんの今治タオル、こんなふうになっちゃったの。どうしてかな。日向に干していないはずなのに」と、すっとぼけて悲しがってみたら、うちの夫は「外に干しちゃったんだよ。ごめんね」と謝ってくれ、以後、ちゃんと屋内干しを順守しています。

コンプライアンスを指すコンパス
写真=iStock.com/akinbostanci
※写真はイメージです

家事は一朝一夕では身に付かない

やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たじ。
やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

かの有名な山本五十六のことばです。家事を分担するとき、私は、このことばを復唱しています(微笑)。

家事は、非常に複雑なマルチタスク。人工知能が最後までできないタスク分野とも言われています。一朝一夕では身に付きません。どうか、温かく見守ってあげてください。

黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
脳科学・AI研究者

1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。