工場の海外移転が労働生産性を低下させた

図表7は、外国からの投資額をGDP比にしたものである。

【図表7】先進主要国の対内直接投資(GDP対) の割合(2015年末)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

これを見ればわかるように日本は、自国での設備投資が増えていないだけではなく、「外国が日本に投資をする額」も非常に少ない。

つまりは、日本国内の生産設備は、この20年間、ほとんど生産力が上がっていない、スカスカの状態なのだ。そして国内で生産をしない、ということは、「日本の労働生産性が低い」ということにもつながっているのだ。

「日本企業が海外進出しても、企業の収益が増えるのであれば、結果的に日本に利益をもたらす」と述べる経済評論家などもいる。

が、これは、経済の数字をまったく知らない人の意見である。

仮に、日本国内で、90億円の経費をかけて100億円の売り上げを上げ、10億円の収益を得ている日本企業があるとする。この企業が海外に工場を移転して経費を削減し、20億円の収益を得たとしよう。この企業は海外進出をすることで10億円の増収であり、その分の利益を日本にもたらしているように見える。

しかし、実際はまったく違う。

その企業は、日本国内で活動しているときには10億円の収益しか得られていなかったにしても、その10億円の収益を得るためには、90億円の経費を投じているわけである。その経費はすべて日本国内に落ちるわけだ。

それは多くの雇用を生むことになるし、国内の下請け企業などの収益にもなる。

言ってみれば、この企業は10億円の収益と合わせて、100億円の経済効果を生んでいたのである。

海外進出は誰も得をしない、悪いこと尽くめ

しかし、海外に進出してしまえば、90億円の経費が国内から消えてしまうことになる。工場で働いていた人たちは解雇されてしまうし、国内の工場がなくなれば管理業務も大幅に減るので、正社員も減ることになる。工場に資材や部品を納入していた下請け業者たちも仕事がなくなる。

大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)
大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

誰も得をしない、悪いこと尽くめである。

その対価として日本にもたらされるお金は20億円だけである。この企業は20億円の経済効果しか生まないのである。

つまり、国内に工場があったときには、日本に100億円の経済効果をもたらしていた企業が、工場を海外移転することによって、20億円の経済効果しかもたらさなくなったということだ。

似たような事態は、近年、日本中のあちこちで生じているのだ。

また国内に工場があった場合、工場の利益だけではなく、人件費などもGDPに加算される。逆に工場が海外に移転してしまえば、人件費などがなくなるので、その分GDPが減ることになる。それが、日本のGDPや労働生産性が伸びていない最大の原因なのである。

大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
元国税調査官

1960年生まれ。調査官として国税局に10年間勤務。退職後、出版社勤務などを経て執筆活動を始め、さまざまな媒体に寄稿。100冊以上の著書があり近著に『マスコミが報じない“公然の秘密”』(かや書房)。YouTubeで「大村大次郎チャンネル」配信中。