※本稿は、大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
国民の生産性が落ちたわけではない
図表1は、国民1人あたりの名目GDPの順位である。
この「1人あたりのGDP」というのは、「労働生産性」とも言われる。国民1人あたり、どのくらい生産性があるかという数値ということである。
日本は、この1人あたりのGDPは1996年には5位だった。しかし90年代の終わりから急落し、それから20年以上、下降し続けた。2202年では30位にまで落ちているのだ。
この1人あたりGDPの国際ランキングが下落したことで、「日本人一人一人の生産性が落ちた」というように言われることが多い。経済評論家の多くも「もっと頑張って生産性を上げるべき」ということを述べる人が多い。
しかし、日本の労働生産性(1人あたりGDP)が落ちたのは、国民一人一人の生産性が落ちたからではない。日本の経済構造が90年代以降、急激に変化したからなのである。そしてこの経済構造の変化が、日本経済を歪めさせ国民生活を苦しくしている主因でもある。
90年代以降に起きた経済構造の変化とは何なのか、データとともに明らかにしていきたい。
韓国より低い製造業の労働生産性
日本の1人あたりのGDPが、世界ランキングで急落している要因は実は明白である。
製造業における労働生産性が下がっているからである。
図表2は、製造業の労働生産性の上位国を、2000年と2020年で比較したものである。
2000年の段階では、日本は世界一を誇っていた。高度成長期からバブル期まで製造業において、世界に抜きん出ていたのであり、製造業が日本経済を牽引してきたのだ。
しかし、2020年になると、順位は18位にまで後退している。しかも日本人の多くが日本より遅れていると考えている韓国よりも低いのである。
この製造業での労働生産性の順位低下が、そのまま1人あたりGDPの順位低下に結びついているのだ。
ではなぜ製造業での労働生産性が落ちてしまったのか?
日本人の能力が落ちたのか?
決してそうではない。
日本人の能力はいまでも世界的に高い。世界の工業製品には日本人が最初に開発したものや、日本でしかつくれないものは多々ある。日本の製造業が衰退した最大の原因は、生産設備等が日本から海外に移され、国内が空っぽの状態になってしまったことだ。
その経緯をさまざまな国際データとともに明らかにしていきたい。