より長期的な自殺予防のためにできることとは
前回の記事では「死にたい」と打ち明けられた場合の対応をざっと見てきました。第一にやるべきことは、自殺の準備状況の確認であり、準備がなされている場合には、それを物理的に使えないようにするということでした。これが、自殺潜在能力への介入ということになります。
第二にやるべきことは、所属感の減弱への介入であり、それは、関係性を強化することで所属感を作り、孤独な状態を解消するというものです。そのためには、絆/関係性を作るために話を聞くことが重要でした。
ここまで話をするのでもおおよそ1〜2時間程度は経過しているでしょうし、実際には、このひとつひとつの段階がうまくいっていれば、多少なりとも落ち着いた状態になっており、最後の部分は蛇足かもしれません。とはいえ、より長期的な意味での自殺予防という点ではより重要になってくる点でもありますので説明を加えます。
「自分は役立たず」という考えに働きかけることはできるか
危機介入の最終段階は、「負担感の知覚への介入」です。負担感の知覚とは、自分が周囲や親しい人の負担になっている、迷惑をかけている、自分が役立たずのお荷物になっている、そしてそんな自分が嫌いだという考えのことです。もう少し専門的な言葉で言うのであれば、自尊心が低くなっている状態にも近いかもしれません。孤独感のような感情に比べると、その人が通常持っているこうした考え方の傾向やクセのようなものを変えるのは難しいものであり、時間がかかります。そのため、負担感の知覚への介入について考慮するのは、一番最後になるというわけです。
では、どうすれば、「自分が周囲に迷惑をかける役立たずのお荷物である」という考えを変えることができるでしょうか。対人支援はディベートではありませんので、相手を論理的に問い詰めて論破したところで、その人の考えが変わることは稀なことです。「あなたの考えの○○の部分はおかしい、間違っている、理由は△△である」などと言われたところで、「そうだな、よし、俺の考えは間違っているから今から変えよう」などと思うことはないでしょう。
どちらかといえば、相手が論破しようとして言い立てた事柄に対してさまざまな考えを巡らせ、反論したくなるはずです。関係性も壊れ、考えの傾向が変わることもない。自殺予防という観点からすると、いいことは何もありません。