しょぼんとしているなら話し合いを

親として考えて、これは子どもと共有したほうがいいと思えば、子どもの気持ちをまず聞いたうえで、お母さんはこう思う、と話し合うのも悪くありません。間違っても説得を目的としてはいけません。

ただ学童期の子どもは、幼児期のように、親の言うことを「そうだね、わかった」と素直に聞きません。だからといって自分の言いたいことを、うまく表現できるわけでもありません。しかし子どもが反対意見を言えなくても、顔がくもってきたり、だんだん横を向いたり、下を向いたりしてきたら、間違いなく親の考えは空回りしています。

それに気づいたら、説得になっている話し合いはやめて「何かお母さんがわかっていたほうがいいことがあったら教えてくれる?」と言って、聞くことに徹したほうがいいと思います。

ただ、そういう話題自体、子どもは構えることですから、どの子にもやったほうがいいということではありません。しかし夏休みが終わりに近づくにつれて、しょぼんとしている、不安そうにしている、そんなサインがあらわれている子には「そんなに学校で緊張しなくていい」「学校でいい子じゃなくていいよ」と伝えるためにも、話し合ってみることは価値のあることかもしれませんね。

自宅で孤独な少年
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子どもは「親が自分の最大の成功を期待している」と思い込んでいる

親御さんに知っておいてほしいのは、子どもというのは「親が自分の最大の成功を期待していると思い込んでいる」ということ。実際は、それほどでもない親でさえ、子どもはそう思い込んでいますから、いわんや本気でその気になっている親なら、子どもはもう本当にプレッシャーでガチガチになります。結局、いちばん子どもを追い詰めているのは、親ということもあるのです。

特に今は幼児期から受験準備をし、私立の小学校に入学し、そのパフォーマンスのままに中学、高校、大学に入って、と子どもの人生をデザインしようとしている親が多いように感じます。それはときに心理的虐待といってもいいような域に入ってしまう危険もあることを承知していなければなりません。

学校に行きたくないというわが子が、どんな思いで学校に行き、夏休みを過ごし、そして新たな学期の始まりを予想して、どんな表情をしていて、どういう雰囲気なのか。そういう客観的な視点を、親御さんはぜひ夏休み中に持ってもらいたいですね。そして親御さん自身が自分の言動を振り返りながら、子どもは親の思い通りにならないものだと腹をすえてほしいですね。

そのうえで本当にリスクが高かったり、現に休み始めたりしたら、胸襟を開いて学校や教師と話し合うのがよいだろうと思います。

齊藤 万比古(さいとう・かずひこ)
恩賜財団母子愛育会愛育相談所所長,医療法人社団翠松会松戸東口たけだメンタルクリニック

千葉大学医学部卒業。国立精神・神経センター精神保健研究所児童思春期精神保健部長。独立行政法人国立国際医療研究センター国府台病院精神科部門診療部長。恩賜財団母子愛育会 総合母子保健センター愛育病院小児精神保健科部長を経て現職。松戸東口たけだメンタルクリニック医師