夫婦関係がやり直しのできない状態か

実際の裁判では不貞行為以外の②から④が離婚原因になることはまれで、多くの場合、争点になるのは、⑤の「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるかどうかです。

これは一般的に、「婚姻関係が破綻して、回復の見込みがないこと」を意味します。つまり、夫婦のどちらが良いか悪いかではなく、夫婦関係が客観的にやり直しのできない状態にあると認められれば、離婚を求める判決が下るということです。

破綻の具体的な内容としてよく知られているのは暴力や借金ですが、暴言や嫌がらせによって精神的虐待に至るほどの言動があると立証できれば、夫婦関係の破綻が認められて、離婚の請求が認容されます。そのため、皆さんが「モラハラ」と呼んでいる個々の言動を立証できれば、離婚はできるのです。

とはいえ、モラハラの場合、「LINEやメールでは暴言を書いてこない」「夫の目の前で録音するのが難しかった」「夫に証拠のデータを消されてしまった」といったケースもあります。

もし十分な証拠がなく、裁判で夫の言動が立証できなくても、3~5年ほど別居をしていれば、その事実をもって、夫婦関係が破綻しているものとして判決で離婚が認められます。つまり、別居を始めれば、モラハラの証拠がなくても離婚できるのです。

これが「モラハラで離婚する」ということの全体像です。

ここまで読めば、「モラハラでも離婚できる」ということがおわかりいただけたと思います。

行動を起こせば必ずゴールにたどり着く

さて、最初の事例に戻って、A子さんのこれからについて考えてみましょう。

女性から離婚についての依頼を受けた場合、私はまずは夫と話し合いを行います。そこで離婚したい理由や条件面について伝え、夫と合意ができればもちろん離婚できます。

夫と合意ができない場合には、離婚調停を申し立て、調停委員を交えて話し合い、調停が成立すれば離婚できます。

仮に裁判までもつれても、証拠によって、夫がA子さんに暴言を言っていたこと、それによって夫婦関係が破綻していることが認定されれば、離婚が認められる判決が下ります。

一方、もし裁判で夫婦関係の破綻が認定されるような状況でなくても、A子さんは離婚できないということはありません。別居をして3~5年後に裁判をすれば、その事実をもって、破綻が認められ、判決で離婚が認められます。

このように、行動を起こせば必ず離婚というゴールにたどり着くことができます。

法律相談で私がこのように説明すると、A子さんは大きく息をついて、「安心しました」と言いました。

「まずは証拠をもう少しそろえつつ、夫と別居する準備を始めようと思う」とおっしゃいました。こうしてA子さんは離婚に向けて歩み出しました。