ギャグをまぶされた高橋作品のフェミニズム

高橋先生は「女子だってたくましい方がいいのでは?」というメッセージにギャグという粉砂糖を上手にふりかけて見せる。読者はそれを甘いな~美味しいな~と食べているうちに、たくましい女がどんどん好きになってゆく。ラムちゃんというかわいらしさの権化みたいなキャラを配置しつつも、女らしさ至上主義を後景化するというマジックが『うる星やつら』にはあるのだ。

高橋先生と言えば、『らんま1/2』に登場する天道家の三姉妹もかわいらしさとたくましさの双方を兼ね備えたキャラクターだったし、他の作品にも同様の傾向があるように思う。彼女たちから感じられる高橋流のフェミニズムを見落としてしまうのは、実にもったいないことだ。

たくましく「なってからの人生」が描かれる女子マンガ

ここまでにご紹介してきたたくましい女たちは、どういうわけか最初からたくましい。もしかしたらもやしっ子だった過去があるのかもしれないが、その部分は省かれ、たくましくなってからの人生が描かれている。

浦沢直樹『YAWARA! 完全版 デジタル Ver.(1)』(ビッグコミックス)

もしこれが、男子を主人公とするマンガだったら、もやしっ子からの成長過程をドラマティックに描くだろう。事実、少年マンガの多くが、やがてヒーローになる男子の成長譚だ。凡庸な主人公が何らかのきっかけで冒険に出かけたりスポーツをはじめたりして、ときには挫折を味わうものの、次第に強くなっていき、最後は宿敵を倒す。

ところが女子マンガでは、そのような筋運びは必須ではない。

浦沢直樹『YAWARA!』のヒロインである「柔ちゃん」こと「猪熊柔」もまた、のっけからたくましい女として登場する。彼女は5歳で父親を投げ飛ばした柔道の天才。この事件をきっかけに父親は家を出ていってしまい、母親は父親捜索に生活のほとんどを費やしている。

両親の代わりに柔を養育したのは、祖父の「滋悟郎」だ。彼は、孫を世界最高の柔道家に育てようとし、その甲斐あって柔はとんでもなくたくましい女に成長することとなった。

たった1回の不戦敗を除いて全ての試合で勝っているし、2階級制覇もしている。ちなみにオリンピックはソウルとバルセロナに出場しているが、どちらの大会でも金メダルを獲得。向かうところ敵なし。たくましい女がその肉体をフル活用することで、読者にとてつもない爽快感を味わわせてくれるのだ。

試合に関しては快進撃を続ける柔だが、実は「ふつうの女になりたい柔」と「たくましい女になりたい柔」の間でめちゃくちゃ引き裂かれている。それは、彼女のたくましさが、彼女の意志によって獲得されたものではないからだろう。

柔道は気がついたらやらされていたものであり、彼女には自ら望んで柔道を選択した記憶がない。むしろ、自分が父親を投げ飛ばしたせいで家出したのだと思っているため、柔道は家庭を壊すものだと認識しているくらいだ。だから、心から柔道をやりたいと思えるようになるまでかなりの時間を要しているし、作中なんども柔道を辞めようとするシーンが出てくる。