1年の虐待死事件は約50件で実母が加害したものが過半数

令和3年度に児童相談所が対応した児童虐待は20万7659件で過去最多。令和2年度の心中事件を除く虐待死は49人で、そのうち実母が主な加害者となったケースが約60%だった。

児童相談所は、虐待通告や虐待に関する相談を受けた場合、まず児童福祉司が調査を行う。家庭訪問による子どもの確認、親からの聞き取りや、内容によっては親子を児童相談所に呼び、それぞれの面接、必要に応じて心理テストも行う。また、保育園、幼稚園、学校など子どもに所属がある場合は、登園、登校状況や親子の様子についての聞き取り、保健所に過去の健診の結果の聞き取りも行う。

この調査結果を基に、会議が行われ、今後の方針が決定される。この方針決定に関して、AIを導入し、その評価を参考にする、というのが三重県児童相談所の取り組みである。三重県の発表した「三重県におけるAIを活用した児童虐待支援システムの導入について」によると、三重県児童相談所は平成24年度の死亡事例を検証し、26年からAIによるアセスメントツールの運用を開始している。

病院で生まれたばかりの新生児
写真=iStock.com/JaCZhou
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虐待した母親は出産後「育てられない」と児相に伝えた

なぜ虐待死は防げなかったのかを検証する前に、この事件の経過を振り返っておきたい。

まず、この母親は、平成31年に「子どもを養育できない」と児童相談所に相談し、児童相談所は子どもを一時保護した後、乳児院に措置している。しかし一部報道では、母親はそれ以前に、熊本の赤ちゃんポストに子どもを預けたことがあるとされている。

乳児院措置後、令和3年に母親の希望によって子どもは家に帰ったが、令和4年2月に保育園から子どもの両ほおと耳にあざがある、との通告があり、児童相談所は家庭訪問により、あざを確認した。この際、児童相談所は一時保護も検討したが、あざが軽微だったことと、母親が指導に従う姿勢がある、との理由で一時保護しなかった。

その後、児童相談所は国のガイドラインにより、3カ月に1度、保育園や親族からの聞き取りは行ったが、子どもはあざが確認された2カ月後の昨年7月から登園しなくなった。児童相談所は長期欠席を知りながら、かつ「要保護児童」としながらも事件の起こった今年5月まで約1年間、家庭訪問等によって子どもと母親に直接会って話を聞くことはしなかった。