子どもの意向が決め手に

ケース2
〈年齢〉父親:40歳代後半 母親:40歳代前半
〈職業〉父親:自営業 母親:会社員
〈子ども〉長女:14歳
〈背景〉父親が親権者として監護
〈経緯〉母親からの親権者変更の申立

両親が離婚したとき、子ども本人が父親と暮らすことを希望しました。そのため父親が親権者となって一緒に暮らしてきました。しかし、母親はかねてから子と一緒に暮らして監護するとともに、親権も得ることを希望していました。その目標を達成するため、母親は子どもと父親が生活している住居の近所に引っ越し、子どもが気安く母親宅に来られるように工夫しました。また、弁当なども作って持たせたり、学校からの帰宅先を母親宅となるようにし、夕食を提供するなどして母親宅に宿泊するように子どもを導いていきました(なお、父母ともに再婚していません)。

15歳以上であれば、親権者の決定や、親権者の変更にあたって子どもの意思を確認することが必須になります。子どもは14歳のため、まだ親権者を自分で選択できる年齢に達してはいません。しかし、親権者である父親の了承が得られたことと、申立人である母親から子どもに聞いてもらったところ、父母のどちらと一緒に暮らしたいかなどについて子どもから家庭裁判所調査官に話をしてもかまわないという返事が得られました。それを受けて家庭裁判所調査官によって「意向調査」が行われました。

「意向調査」では何を聞くのか

「意向調査」は裁判官の命令によって行われるもので、子どもがどちらの親を親権者とするのを望んでいるのかを調査することです。意向調査の際には、父母のどちらを選択するのかについて直接的に質問するのではなく、子どもの心が傷つかないように配慮して、周辺的な質問をしたり、行動観察したりすることによって、子どもの気持ちや考えを確認します。

父親については、自分のことを大切にしてくれ、進学などにあたって自分を一人の人間として扱ってくれ、自分の意見を尊重してくれてうれしいと長女は考えます。しかし、当初は中学の進学に関して母親とは考えが異なっていましたが、進学準備を具体的にする段階になると、母親が塾からの帰宅の際の迎えをしてくれたり、勉強で分からないところを教えてくれたり、夜食を準備してくれたりしてサポートしていました。

親と娘、ラップトップコンピュータ
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです

中学への進学後も部活動をはじめとしてさまざまな相談に乗ってくれたり、宿題について教えてくれたり、弁当を作ってくれたりするにつれて、いつの間にか母親の自宅に泊まることが多くなり、生活の中心が父親宅から母親宅へ移ってきています。以上のようなことから、長女は、父親へは従来通り会いに行くことを前提として、現在の母親との生活を継続したいと考えていることが判明しました。

子どもの意向が父親に伝えられると、現在の子どもの生活形態から予測していたことでもあり、親権者の変更が受け入れられることとなりました。