複数の「助け方」が具体的にわかる
そもそも、痴漢犯罪は天災でも自然災害でもなんでもなく、それをやる加害者に多大な問題があるので、「どうしてそこまで被害者と第三者が意識を上げていかなきゃいけないんだ」って話なのですが、それが現状です。
「助ける準備、できていますか?」ポスターは、車内で痴漢犯罪行為を見かけたら「非常通報器」を鳴らしていいと明記しています。さらにスマホアプリを被害に遭っているかもしれない人に見せる方法、そして直接、声をかけることがどのように被害者を救うのかを簡潔に表現しています。
東京都交通局の公式サイトの「痴漢対策」ページにはこのような記載もあります。
「列車が駅に到着した後は駅係員又は巡回中の警察官まで、痴漢行為を見かけたことをお知らせください。駅係員から、110番通報するなど、適切に対応します。」
駅係員が110番してくれるんだ、と安心できます。
このように、助ける側の方法が複数あって、なおかつ1人の作業が重すぎないことを知らせてくれることで、第三者はやっとその場に応じた対応ができます。
通報器やスマホアプリなど、乗客側では用意できないものをしっかり提示して、乗客がスムーズに助けられるように促している。
被害者の声をしっかり聞き、その深刻さを理解し、どうしたら痴漢犯罪をなくすことができるか、を鉄道会社や警察が真剣に考え、向き合い、ちゃんとお金を使って対策をとる。これが数年前までは本当に感じられませんでした。しかし、今は「助ける準備、できていますか?」までに進化しています。この10年で前進した世の中を象徴するポスターだと思いました。
5年ほど前、ネットで私が漫画シリーズのポスターについて本音を書いた際、「漫画を描いてるくせに漫画で表現したものを批判するなんて」と数名の方から叩かれました。
本当に漫画シリーズは、配色や描画などとても優れているとは思います。でも今もし、同じ漫画シリーズが貼られたとしたら、違和感を持つ人が当時よりは格段に多いに違いありません。
1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。