「非情なほどに、恐ろしいほどに破壊的」
さて、プロンプトの出しようによってはまあまあなクオリティーで返してくる対話型AIは、世間が憂うように、もしかして人間の仕事を世の中から駆逐してしまうのか。もう我々はほぼ全員AIに代替され、存在意義を失って映画「マトリックス」の人間電池になるしかない運命なのか?
「80年代からIT業界を見続けてきた」という米国ZDNETの編集者、デイヴィッド・ゲワーツ氏は、ChatGPTリリース後2月時点の記事で、これまでのインターネット的発明――出会い系サイトとしても有名だった掲示板Craigslist、アマゾン、Uber、Airbnb、Google、Facebook、Spotifyなど――と比較してなお、
「ChatGPTは破壊的(disruptive)だ。非情なほどに、恐ろしいほどに」
と「衝撃で首筋の毛を立てながら」結論している。
“Just how big is this new generative AI? Think internet-level disruption” ZDNET Feb. 27, 2023
「誰にも嫌われないコメンテーター役」には最適
だが米国『WIRED』誌は、ChatGPTの“知性”の仕組みについてこう指摘する。
ChatGPT(や、並び称されるGoogle Bard)は実際には何も知らない。けれどこの言葉の次にはどの言葉が来るべきかということを判断するのは長けていて、それがある程度の到達レベルに来ると本物の人間の思考や創造性のように見え始めるのだ。
ChatGPT and Bard don't really “know” anything, but they are very good at figuring out which word follows another, which starts to look like real thought and creativity when it gets to an advanced enough stage.
“How ChatGPT and Other LLMs Work―and Where They Could Go Next” WIRED Apr. 30, 2023
つまるところ、生成AIはパターン思考の繰り返しによるアウトプットを出すだけで、本来クリエーティブなわけではない。
失言せず、どこかから拾ってきた当たり障りのないことをきれいに整理して言うことが生来的に得意だから、何か事件が起こったとき、ワイドショーの尺を埋める「清潔感があって誰にも嫌われない上に視聴者の手軽な歓心を買うことのできるコメンテーター」役なんかにはとてもいいかもしれない。
では、テキスト生成AIが商売敵となるであろうと容易に考えられる各種“ライター”たちはどう感じているのだろう。
ChatGPT生成レベルの平凡な文章がかろうじて書けるような層は、当然淘汰されるだろう。だがこれまで自分たちの個性と技術を磨いてテキスト(プログラムを含む)を提供することを生業にしてきた人々、自らのクリエーティビティーに自信というより自覚がある彼らの多くは「個人的には脅威を感じない」と考える人が多い。
ライターである私個人も、人間が書く文章の面白さや“味”というのは、AIなら起こさない「いい破綻」や「癖」、突然さしはさまれる転調のような思考の「飛躍」の部分にあると考えている。
人間というナマで不確かな存在にひも付く、少々変調した(狂った)オリジナリティー。破綻や癖や論理的飛躍を排除して生成される、通り一遍の整った文章に感動はない。生きているとは、制御外に飛び出すということだ。