まさか子どもが産める体だと思わなかった

「婦人科の先生が、『ちょっと大きくなってきましたね。どうしますか?』って。生理痛が重いことはあったけど、ほかに体に不調はなかったので、すぐにどうこうしようということにはならなかった。ただ、『人によっては生理不順や痛みとか、ほかの臓器への圧迫で、社会生活に影響が出ることもありますよ』と警告はされていたのよ」

このときの医師の「どうしますか?」は、近い将来に手術を検討すべきだという意味だった。手術には、「子宮全摘術」と、筋腫だけを取る「筋腫核出術」がある。また、筋腫を小さくする治療などもあるようだ。

妻が続ける。

「たまたま筋腫のあった場所が、子宮のうしろ側で腸などを圧迫せず、自覚症状があまりないまま成長していたの。それで、結果的に赤ちゃんができたときも、赤ちゃんを圧迫せずに済んだんだけど。その頃は、まさか子どもが産める体だとは思わなかったの」

子宮筋腫の肥大化でもやもやする一方で、妻の心配ごとはさらに増えていった。

年に1回受けていた女性健診で、2019年9月に、子宮頸ガンの疑いが発覚したのだ。妻が明かす。

子宮頸ガンの疑いで精密検査

「『子宮頸ガン疑い』の中でもいちばん軽い状態で、『子宮の入り口の細胞に変形が見られる軽度異形成』という検査結果だったの。それでも、『ガン疑い』という言葉は怖かった。それで、文京区内のクリニックでさらに精密検査を受けることになって……」

中本裕己『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』(ワニ・プラス)
中本裕己『56歳で初めて父に、45歳で初めて母になりました 生死をさまよった出産とシニア子育て奮闘記』(ワニ・プラス)

精密検査は、子宮頸部の一部を削り取る「組織診」と呼ばれるもので、「痛くて、出血もかなりあった」そうだ。精密検査の結果は、やはり、「子宮頸ガン疑い」の軽度のもので、「半年に一度、経過観察が必要」という診断結果だった。

加えて、内診とエコー検査の結果、「子宮筋腫がこれだけ大きいと、手術をしたほうがいい。筋腫が血管を圧迫して血栓ができる可能性もある。そうなれば命に関わります」と、心配に追い打ちをかける警告もあった。

それで妻は、さらに別のクリニックで子宮のMRI検査を受けることになった。寝ている状態で大きなトンネル状の形をした機械が通過し、体の中や臓器が磁気の共鳴によって撮影され、輪切りや任意の断面が映し出される、あの装置である。

その結果は――。

「子宮筋腫は大きすぎるので、腹腔鏡などで筋腫だけを取るのは困難。開腹で筋腫だけを取るのはリスクが大きく、子宮全摘を考えてもいい時期だ」というのが医師の見解だった。

医師が投げかけた「子ども、もういいですか?」の意味

妻が振り返る。

「カルテにある私の年齢を見て、『子ども、もういいですか?』って言われて……。そのとき44歳になってたから。そうか、『もういいですよね』と言われる年かと。そういう年になったのかって、このとき現実に直面したのよね」

妻は、9月に精密検査して、10月にそう宣告されていた。

この間、私はいったいなにをしていたのか。

LINEの妻とのやりとりで振り返っても、熱海に1泊旅行をしたり、浅草の「まつり湯」という日帰り温泉に行ったりして、妻とは飲んだくれていた記録しか残っていない。

なんてことだ!

中本 裕己(なかもと・ひろみ)
産経新聞社 夕刊フジ編集長

1963年、東京生まれ。関西大学社会学部卒。日本レコード大賞審査委員。浅草芸能大賞専門審査委員。産経新聞社に入社以来、「夕刊フジ」一筋で、関西総局、芸能デスク、編集局次長などを経て現職。広く薄く、さまざまな分野の取材・編集を担当。芸能担当が長く、連載担当を通じて、芸能リポーターの梨元勝さん、武藤まき子さん、音楽プロデューサー・酒井政利さんらの薫陶を受ける。健康・医療を特集した新聞、健康新聞「健活手帖」の編集長も兼ねる。48歳で再婚し、56歳で初めて父親になる。