高度先進医療についてはどうか

最近では、高度先進医療にお金がかかるので医療保険に入った方がいいという意見も多く聞かれます。

たしかに高度先進医療には公的医療保険が適用されません。でも、これは順序が逆なのです。

なぜ高度先進医療に公的医療保険が適用されないのかを考えてみましょう。それは、その治療の効果が確認されていない実験的なものだからです。十分な効果が見込まれるものであれば、公的医療保険が適用されるはずです。

患者さんにしてみれば、藁をもつかむ気持ちで、実験的な治療でも試してみたいという気持ちはよくわかります。でも、お医者さんによっては、そういう治療を勧めない、あるいはやりたくないという人もいるでしょう。なぜなら失敗する可能性も大きいし、そうなった場合、最悪、医療訴訟ということも考えられるからです。実際に私の友人には何人も医師がいますが、一様に高度先進医療には慎重な姿勢です。

高齢者に説明する男性医師
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

高齢期に必要なのは「保険」よりも「現金」

このように冷静に論理的に考えると、入るべき保険と入る必要のない保険が見えてきます。ところが、どうやら日本人は世界一保険が好きな国民のようで、かなり過剰に保険に入っているように思えます。

大江英樹『50歳からやってはいけないお金のこと』(PHPビジネス新書)
大江英樹『50歳からやってはいけないお金のこと』(PHPビジネス新書)

公益財団法人生命保険文化センターが3年に一度「生命保険に関する全国実態調査」をおこなっています。直近の2021年度の調査を見ると、生命保険で払い込む保険料は全世帯平均で年間37万1000円となっています。これが中高年齢層になると増える傾向があります。50代前半では43万2000円、50代後半になると43万6000円。60代前半では38万4000円といったん減少しますが、60代後半には再び43万6000円と増加しています。

前述したように、高齢期になれば生命保険に入る必要があるかどうか疑問です。むしろ、高齢期に必要なのは保険ではなくて現金です。保険はその保険がカバーする事態が起こった時にしか支払われませんが、現金を貯めておけば何にでも使うことができます。

保険の見直しで+1000万円の貯金ができる

毎年40万円以上も保険料を払い続ける、それも自分が死んだ後に支払われる生命保険にそんな金額を払い続けるよりも、その分を貯金しておけば、50歳から70歳までの20年間で800万円以上になります。

病気になった時は公的医療保険で治療費をまかない、個室に移りたい場合やタクシーで病院に行きたい場合は、生命保険料の代わりに貯めていた貯金から使えばいいだけです。そう考えると、医療保険もやめてしまえば、おそらく1000万円を超える金額を貯めることができるでしょう。

病気になった時の治療費は公的保険でまかなえるのですから、そのお金は入院した時の個室代に使えばいいし、幸いにして病気にならなければ、そのお金を、定年後に夫婦で旅行に出かけたり、遊びに来た孫に好きなものを買ってあげたりといった、人生における多くの楽しみに使うべきではないかと私は考えます。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。