憲法が禁止する「門地による差別」

(2)については、いわゆる旧宮家系国民男性が対象として想定されている。しかし、その対象者は皆さん、生まれた時から戸籍に登録された純然たる国民であって、そうした人を家柄・血筋(門地もんち)を根拠として、他の国民には認めていない特別な扱いをする制度は、明らかに憲法(第14条第1項)が禁止する「門地による差別」に当たる。

憲法上、「門地による差別」の例外になり得るのは、憲法第2条に「皇位は世襲」とあるのを根拠に持ち、国民とは区別して皇統譜に登録されている天皇・皇族(皇室典範特例法施行後は上皇も含む)“だけ”というのが、当然の原則であり、憲法学界の通説だ。その一方で、それらの方々は国民に保障される自由や権利は、全面的または大幅に制約されている。

これに対し、旧宮家を含む国民の中の「皇統に属する男系の男子」(多数存在する)は当然、皇室の方々とは異なり、これまで制度上、他の国民と違う特別な扱いがなされたことはないし、今後もあってはならないだろう。

なぜ「婚姻」以外の皇籍の取得を認めていないのか

ここで想起しておきたいのは、皇室典範が「婚姻」による以外は皇籍の取得を認めない(第15条)ことの意味だ。

法制局(内閣法制局の前身)編「皇室典範案に関する想定問答」(昭和21年[1946年]11月)には以下のようにその趣旨を述べている。

「臣籍に降下したもの及びその子孫は、再び皇族となり、又は新たに皇族の身分を取得することがない原則を明らかにしたものである。けだし、皇位継承資格の純粋性(君臣の別)を保つためである」(カッコ内は原文のママ)

「臣籍に降下したもの及び“その子孫”」と明記してある。

(2)はまさに、この立法趣旨を真っ向から否定し、「皇位継承資格の純粋性(君臣の別)」をないがしろにする提案だろう。

もし(2)がそのまま制度化されたら、国民平等の理念を傷つけ、憲法違反の疑いを背負った皇族を皇室内に抱え込む結果となる。やがて、そのような人物の血統を引く子孫によって皇位が継承される可能性も否定できない。

万が一にもそのような事態になれば、天皇・皇室の公的な権威は大きく損なわれ、国民が抱く信頼と敬愛の気持ちも揺らぎかねない。

最善の出口か、最悪の出口か

(1)(2)はいずれも、そのまま制度化するには深刻な問題をはらみ過ぎていると言わざるを得ない。しかも、皇位の安定継承への展望には何ら貢献しない。

今後、政府・国会の皇位継承問題への取り組みを評価する場合に、判断基準となるものは何か。今回の有識者会議報告書の提案を最低ライン(これが最悪の“出口”)として、本来なら唯一の解決策とすべき「皇室典範に関する有識者会議」報告書の線(こちらは最善の“出口”)にどれだけ近い結論になっているかによって、それがどの程度、妥当か不当かを判断できるはずだ。

果たして、政府・国会はどのような皇室の危機の打開策を選び取るだろうか。

高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録