続けることこそ症状の進行を遅らせる特効薬
では、なぜ、できることを続けることで、症状の進行を遅らせられるのか――。
そのメカニズムは、今の医学では、理論的な説明は難しいのですが、多数の疫学的調査と臨床的経験から専門医の間では常識的になっていることです。
私自身は、その理由のひとつは、私たち人間がそもそも脳の機能の10%ほどしか使っていないことが関係しているとみています。認知症が進行しても、「できること」を続けていると、それまで使っていなかった健常な神経細胞が、失われた部分を補完するのではないかと思うのです。
つまり、できることを続けることが、脳の余力を引き出し、結果的に進行を遅らせるというわけです。
だから、認知症と診断されたとき、最も避けたいのは、「もうボケたのだから、◯◯をやめよう」、あるいは周囲の「やめさせよう」という発想です。
そうして、脳や体を使わなくなる(使わなくさせる)ことが、認知症の進行を早めてしまうのです。
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。