聞き手の姿が曖昧だと、聞き手が離脱する

そもそも、こういった事態に陥るのは、聞き手の能力が足りないわけではなく、話し手が自分の頭の中に描いた聞き手の姿が曖昧あいまいでぼんやりしているからです。鮮明に聞き手の表情が思い浮かべられていれば、その表情が曇らないよう、難しい内容を伝える場合には、より丁寧に説明しようとするはずです。

常に聞き手の姿を頭の中に描きながら話していると、つい伝え忘れてしまうような要素に気づくこともできます。

日時や場所、話の中の登場人物の説明など、つい聞き手に伝え忘れるクセがあるなら、ぜひ頭の中に聞き手のイメージを鮮明に描いてみましょう。

自分の話を繰り返し聞く人は圧倒的に話がうまくなる

Voicyのサービスを運営する中で、僕は普段から、リスナーがどんどん増える人や、どんどん話がうまくなる人に共通点がないかと観察してきました。その中で、とても感銘を受けた事実があります。

緒方憲太郎『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』(ダイヤモンド社)
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話がうまくなり、リスナー数を増やすパーソナリティは、自分の放送を何度も聞き直しているのです。

「一番のリスナーは自分自身」。人気パーソナリティの中には、こう口にする人が少なくありません。

自分の話を繰り返し聞いている人は、圧倒的に話がうまくなる。繰り返し聞いて、話し方の悪いクセを改善するだけでなく、「ここは分かりにくいな」という点も、次回から丁寧に説明するなど、改善点に気づいて修正していく。だから、成長が早いのです。

一方で、普通の人は自分の話を聞き直したりすることはありません。会議でも、自分の話を聞き直すのは面倒ですし、少し恥ずかしかったりします。

鏡を見るのと同じ気楽さで聞き直す

少し考えてみてください。

普段、みなさんは朝起きてから出かけるまでの間に、少なくとも一度は自分の姿を鏡で確認しますよね。自分の顔を鏡で確認することなく、体形や服装、髪型の状態も分からないまま、より良くすることはできません。

見た目には気を配っている人でも、同じように「話」に配慮している人は少ないようです。自分の顔を鏡で確認するように、自分の話し方も本来ならば、聞き直して確認してみるべきなのです。

例えば会議のシーンで、あるいは部下との個人面談で、自分がどのようにメッセージを伝えているのか録音して、聞き直してみてはいかがでしょうか。

鏡で自分の顔を見るのと同じような気楽さで、自分の音声も聞き直す。

そう考えると、ハードルは少し下がりませんか。実践してみれば、今までとはまったく違った世界が待っています。

緒方 憲太郎(おがた・けんたろう)
Voicy代表取締役CEO

ビジネスデザイナー、公認会計士。大阪大学基礎工学部卒業後、同大学経済学部も卒業。2006年に新日本監査法人に入社し、その後Ernst & YoungNew York、トーマツベンチャーサポートを経て起業。2015年医療ゲノム検査事業のテーラーメッド株式会社を創業、2018年業界最大手上場企業に事業売却。2016年音声プラットフォームVoicyを開発運営する株式会社Voicyを創業。同時にスタートアップ支援の株式会社Delight Design創業。新しい価値をビジネスで設計するビジネスデザイナーとして10社以上のベンチャー企業の顧問や役員にも就任し、事業戦略、資本政策、サービス設計、PRブランディング、オープンイノベーション設計、その他社長のメンターやネットワーク構築を行う。著書に『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』(日本経済新聞出版)