今まさに海に進出しようとしている中国とロシア

現在、海を支配しているアメリカに対して、挑戦しているのが中国です。これまで中国の海運が発展しなかったのは、毛沢東の時代まで海外貿易を最小限にしていたからです。毛沢東の死後、政権を受け継いだ鄧小平は資本主義を取り入れようと海外貿易を始めましたが、そのシステムは、すでにアメリカが主導していたため、ここ30年はアメリカのシステムに便乗して大きく発展してきました。

しかし、こういった国力を得た国というのは、今度は自分たちが海のシステムを経営したいと思い始めるものです。アメリカが持っているような空母を自分たちも手に入れたい。「遼寧」「山東」「福建」といった空母を、アメリカ海軍のように運用して、世界の貿易システムに挑戦していこう、アメリカをしのぐ海軍力を持とうというのが、世界ナンバー2になった今の中国の狙いです。

そのためには、まず海に出て、ほかの国を排除したい。南シナ海や東シナ海にアメリカの空母を入ってこさせたくない。だから中国は東シナ海に出て、尖閣諸島周辺を航行したり、南シナ海に人工島を建設したりしているのです。また2017年にはアフリカ東部ジブチに初の海外基地を建設しましたが、22年現在、カンボジア南部のリアム海軍基地も第二の海外基地にするのではないかといわれています。

そして中国以外に、もう1つ気になるのがロシアの動きです。冷戦時代はアメリカと対峙たいじし、軍事大国になった歴史を持つロシアは、核兵器や豊富な天然資源を持っていることから、今も世界に対して影響力があります。しかしながらロシアは内陸中心の国なので、海のルートを確立できず、経済的には厳しい状態。そこで、かつての主要貿易ルートである黒海の支配権をウクライナから取り返そうと動いています。今回のウクライナ侵攻は、まさに海のルートを支配しようというロシアのあらわれといえるでしょう。

中国やロシアはいずれも、積極的に海に進出しようとしています。アメリカや日本は、中国の進出によって世界秩序がくずされて、それに付随した民主主義や自由さ、公平さまでつぶされてしまうのではないかという恐怖心を持っています。ヨーロッパもまた、ロシアにウクライナを取られてしまうと、西側の自由で公平なシステムが脅かされてしまうのではないかと恐れています。今まさに地政学的にも、専制主義と民主主義の戦いが起こっているのです。

未来の世界情勢

構成=池田純子 イラスト=いなばゆみ

奥山 真司(おくやま・まさし)
地政学・戦略学者

戦略学Ph.D.(Strategic Studies)国際地政学研究所上席研究員。カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学卒業後、英国レディング大学院で、戦略学の第一人者コリン・グレイ博士に師事。近著に『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)がある。