誰でもお金に困ったら風俗に入って稼げるのか

ハルの話を1時間聞いていて、果たして女性は貧困におちいったら、すぐに風俗嬢になれるものなのだろうかと思った。ハルの場合は、キャバクラのバイトから、SM嬢の仕事へといとも簡単に移行していったのだから。

樋田敦子『コロナと女性の貧困2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』(大和書房)
樋田敦子『コロナと女性の貧困2020-2022 サバイブする彼女たちの声を聞いた』(大和書房)

「なれるとは思うけれど、性に対して探究心がないとダメかな。興味もないと続けられないと思う」

その経歴からは、高学歴風俗嬢というキャッチーなフレーズが浮かぶが、「そんなことは関係ない。風俗嬢は好きでやってる」と淡々としている。

「少し前に風俗嬢であることを母親には話した」のだそうだ。

「母がスマホを買い、SNSをばんばん使うので、いつかはバレると思っていたんです。どうせバレるなら、バレる前に自分から言っておこうと思った。まあ、私としては勇気を出して母に言ったのですが、泣いたり叫んだり、怒ったりすることはなかったですね。厳格な人だったし、私ひとり娘だし、落胆はしたとは思うけれど、受け止めてくれたとは思っています。内心はわからないけれど。父親には、エステで働きながらフリーの管理栄養士としてやっていると話していて、納得しているようでした」

生活費には困っていないが「自己肯定感の貧困」がある

最後にハルに聞いてみた。貧困と聞いて何を思い浮かべるのか、と。

「そこそこ楽しみながら暮らせているし、私は貧乏ではないと思う。“○○の貧困”という意味なら、私の場合は“自己肯定感の貧困”かな。自己肯定感がすごく低いんです。メンタルの貧困もあるなあ。心を解放するのが苦手。大きな厚い鉄壁が他人との間に立ちふさがっている感じかな。あ、結構貧困ありますねえ(笑)」

これまで親に怒られないように、良い子でいようとやってきた。今でもその気持ちが強いという。そんな自分を否定するために風俗が必要だったのだろうか。風俗で稼いで自由でいられるとのこと。この感覚に勝るものはないのだという。その後、AV新法もでき、AV業界も厳しい。AVの収入はあてにできるものではなくなっている。

樋田 敦子(ひだ・あつこ)
ルポライター

明治大学法学部卒業後、新聞記者に。10年の記者生活を経てフリーランスに。女性や子どもたちの問題を中心に取材活動を行う。著書に『コロナと女性の貧困2020-2022~サバイブする彼女たちの声を聞いた』『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(すべ大和書房)がある。NPO法人「CAPセンターJAPAN」理事。