宣伝と煽動を使い分けるロシアの戦略
情報戦という側面からも、日本のマスメディアのほとんどが米ABCやCNN、英BBCなど欧米メディアの伝えたことを報じることが多い。独自取材による1次情報ではなく欧米メディアからの2次情報だ。
しかし、ロシアメディア、それも政府系テレビ番組を情報源として活用することはない。“ウクライナを応援すべき”という価値の体系が肥大しており、ロシアの番組は情報操作が行われていて意味がないと思っているためチェックさえしていないのだと思う。
ロシア革命の指導者だったレーニンは、その著作『何をなすべきか』の中で、情報戦略の方法について述べている。宣伝(プロパガンダ)と煽動(アジテーション)を方法と内容において区別するというのがその要諦だ。宣伝は、政策意思を形成するエリートを対象とし、活字媒体を用いて理詰めに行う。対して煽動は一般大衆向けで、音声により、感情を煽り立てるようにして行う。このレーニン型情報戦略を、ロシアはウクライナ戦争においても継承している。
クレムリン大統領の宣伝「グレート・ゲーム」
宣伝の範疇に属するのが「第1チャンネル」(政府系)の「グレート・ゲーム(ボリシャヤ・イグラー)」で不定期に放映する政治討論番組だ。2月24日にロシアがウクライナに侵攻した後は、「グレート・ゲーム」は、クレムリン(大統領府)が諸外国にシグナルを送る機能を果たしている。
たとえば6月6日(モスクワ時間)に放映された内容は情報価値が高い。
出演したのは、ドミトリー・スースロフ氏(ロシア高等経済大学教授)、ドミトリー・サイムズ氏(米共和党系シンクタンク「ナショナル・インタレストのためのセンター」所長、ソ連からの移住者で米国籍)、レオニード・レシェトニコフ氏(対外諜報庁中将、前戦略研究センター所長、元対外諜報庁分析局長)の3人だ。とくにサイムズ氏は、ホワイトハウスとクレムリンの双方から信任が厚く、現下の情勢における重要ロビイストだ。