日本の皇室の静かな危機
私は、こんなふうにイギリス王室について語る時、つい日本の皇室と比較して見てしまう。
メディアの目から逃れ、ヘンリー王子とメーガン妃のように、皇室から遠いアメリカに移住した眞子さまだが、夫の小室圭さんがついに司法試験に合格した。さぞ、ほっとしているのではないかと思いきや、今度は早くも眞子さまの妊娠準備の話がメディアで語られ始めている。皇室を離脱したとはいえ、ヘンリー王子とメーガン妃同様、この2人もメディアからはなかなか逃れられそうにない。
しかし、今、本当に気に掛ければならないのは、眞子さんのプライベートではないはずだ。チャールズ国王が「自分に何かあった場合の公務をどうすべきか」と考えているのと同様に、天皇陛下も皇室の行く末を気にかけているに違いない。しかし、王室のメンバーが潤沢にいるイギリスと違い、日本は皇位継承権を持つ皇室のメンバーが現在たった3人なのだ。
天皇陛下と皇位継承権第1位の秋篠宮皇嗣殿下の年齢差は5歳。天皇陛下が上皇陛下のように85歳で退位されると仮定すると、秋篠宮殿下はその時80歳で、かなりのご高齢になる。それを考えると、皇位継承権第2位の悠仁さまが皇位を継承するのは意外と早いかもしれない。
問題はその先だ。現在皇位継承権第3位は上皇様の弟にあたる常陸宮正仁親王で、すでに87歳である。つまり、今の皇室では、悠仁さまよりも若く、皇位継承権を持つものがいないという深刻な状況なのに、政府は過去17年間、皇位継承の抜本策についての議論を先送りしてきた。
ヘンリー王子の回顧録発売で、英米メディアのイギリス王室に対する報道は一層加熱するだろう。場合によっては来年1月の回顧録発売で、さらに王室の評判や信頼が傷つくことにもなりかねない。それでも今のイギリス王室が、長い目でみれば日本の皇室よりも安泰に見えるのは、私だけではないだろう。
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。