給料が8000円も低いのになぜ就業前30分の掃除を…
社会人1年目は1985年、男女雇用機会均等法の施行を翌年に控えた時期だった。
窪田さん自身、男女差別がない企業だと思って就職したのだが、ふたを開けてみれば全く違った。
「デザイナーは男女いたのですが、女性の給料は男性より8000円安いという設定でした」
初任給の平均が15万円に満たなかった時代に、この差は大きい。さらに驚いたのが7月、正式に配属先となった部署の係長から「女性は30分早く出社して、掃除とお茶くみを」と言われたことだ。
「私、そこで瞬間湯沸かし器のように、怒りが込み上げてしまいました」
窪田さんは、上司に真っ向から反論した。男女雇用機会均等法が翌年に施行されるというのに、時代錯誤も甚だしいではないか。
「何、言ってるんですか? 8000円も給料が安いのに、なぜ女性だけ30分も早く? それも無給で掃除……。お茶くみなんて絶対にやりません。自分で好きなものを入れたらいいんじゃないですか!」
後から聞いたところによると、このことは大騒動となり、その日のうちに電話で全社の女性社員に知れ渡っていたという。
「自分たちがやってきたことをやらない、わがままな新入社員だと、反応のほとんどがネガティブなものでした」
会社中に女性の敵をつくってしまった
窪田さんの部署ではお茶くみは無くなり、犠牲を払った価値はあったと思うものの、要らない敵を会社中に作ってしまい、定年まで響いたと今は思う。
窪田さんはお茶くみを拒否したことによるいじめを、長い期間にわたって受けてきた。
「私に来客中で、手が空いている人にお茶を出してほしいと言うと『窪田さんはお茶入れをしないんだから』と強く拒否されたり、虫の入ったお茶を出されたりもしました。お金がかかった嫌がらせもありました。
ある日、ひとりの先輩女性Aが、一個1000円近くするデザートを所属部署の人数分買ってきました。そして紅茶も入れて全員にサービスして回り始めました。皆、不思議がりました。ふだんそんな習慣はなかったからです。Aは『おいしそうだから皆さんにごちそうしたくなって買ってきたの』と言うばかり。
そしてAは私の席に近づくと、私にもそのデザートが乗った皿を差し出しました。私が思わずそれを受け取ると、Aはにっこりと笑って『あなたはお茶はいらないわよねぇ?』と、周囲にも聴こえるような大きな声で言い放ったのです。
ここまで手の込んだ嫌がらせをするのかと、ばかばかしくて、笑ってしまうような出来事です。これまで自分たちはずっとお茶を入れて掃除をしてきたのに……と、被害者意識が間違った形で歪んで、自由に振る舞う女性に向かう。だから女性同士のネットワークが育たないんです」
女性の負担を減らすことをしているのに、なぜその女性に敵視されてしまうのか。それは、会社の体質によるものが大きかった。