安倍氏の“手のひら返し”の理由
いくつか発言を紹介する。
これは、先に引用した『文藝春秋』誌上での自らの発言を全面的に覆した答弁だった。この答弁については安倍氏が後日、周囲に「本意」は「違う」と釈明したという報道もあった(産経ニュース平成31年[2019年]4月1日、18時48分配信)。だが、国民への責任を伴う国会での答弁の方がもちろん重く、それを見る限り後の報道内容は苦しい言い逃れにしか聞こえない。では、なぜこのような“手のひら返し”が起こったのか。その謎解きは次の発言が参考になる。
これは私が直接、首相経験者の方から伺った安倍氏の発言だ。その方が安倍氏とサシの場で率直に「旧宮家で実際に皇籍取得の意思がある人はいるのかどうか」を尋ねたところ、安倍氏は正直に上記のように答えたという。
安倍氏は先の文章でも「希望する方々の……」と書いていた。しかし、「希望する」人が誰も「いない」のであれば、手の打ちようがない。それを国会の場で明け透けに語るのもはばかられるので、先のような答弁になったのだろう。
振り返ってみると、政府はこれまで旧宮家の当事者への意思確認について、不自然な答弁を繰り返してきている。たとえば次のような答弁だ。
しかし、まず当事者への意思確認をしなければ、養子縁組その他の方法で、それらの人たちを皇室に迎えるわけにはいかない。だから不可解な印象を免れなかった。
これも先の首相経験者の方への安倍氏の回答によって、その“裏事情”を察することができる。つまり、政府は当然ながら旧宮家の対象となるべき人たちへの“非公式な”意思確認をすでに済ませていて、その結果、「(誰も)いない」ことが明らかになったので、先のような答弁を繰り返すほかなかった――ということだろう。
「憲法を改正しなくても女系・女性天皇は可能」
これは、安倍氏が政府の一貫した立場を表明したものだ。
内閣法制局の執務資料にも「憲法を改正しなくても、皇室典範を改正することにより、女系または女性の皇族が皇位を継承する制度に改めることができる」と明記している(『憲法関係答弁例集(2)』平成29年[2017年])。