幸福度は50歳前後で底を迎え、上昇していくU字型を描くことがわかっている。世界145カ国を対象とした研究では、どん底を迎える平均年齢は48.3歳だ。拓殖大学准教授の佐藤一磨さんは「近年の研究で、この“人生のどん底”がまったくない人、浅い人がいることがわかってきました。彼らの特徴は2つあります」という――。
孤独に落ち込み
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幸福度が最も低くなるのは48.3歳

結婚式のスピーチで次の有名なフレーズがあります。

「人生には3つの坂がある。それは、上り坂、下り坂、そして、まさかである。」

これには若干ダジャレが入っていますが、真実を突いています。

これまでの心理学や経済学の研究の結果、人生には幸福度が低下する時期(下り坂)と上昇する時期(上り坂)があることがわかっています。そして、人生全体を通してみると、幸福度と年齢の関係はU字型になることが明らかにされているのです。

この点に関してアメリカのダートマス大学のブランチフラワー教授が行った分析によれば、ヨーロッパ、アジア、北アメリカ、南アメリカ、オーストラレーシア及びアフリカ等の世界145か国において、幸福度と年齢の関係がU字型になり、幸福度が最も低くなる年齢の平均値は約48.3歳であることがわかっています(※1)

ちなみに日本の結果を見ると、データによって違いはありますが、49歳、または50歳で幸福度が最低となっています。日本では人口構造上、ちょうどこの年齢に差し掛かる人が多い状況にあります。

幸福度と年齢のU字型の関係は日本を含めた世界中の人々が直面する現象となるわけですが、なぜこれが発生するのでしょうか。そして、何か対策はあるのでしょうか。

今回は幸福度と年齢に関する新たな研究成果を参考に、これらの問いに答えていきたいと思います。

(※1)Blanchflower, D.G. Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries. J Popul Econ 34, 575–624 (2021).

50歳前後で理想と現実のギャップが顕在化

年齢と幸福度の関係がU字型になる背景には、諸説あります。

代表的なものに、40代から50代にかけて理想と現実のギャップに苛まれ、幸福度が低下してしまうという説があります(※2)

若年期に思い描いた「大人の自分の姿」が中年期に現実になるわけですが、思い描いた理想と現実のギャップに直面した場合、「こんなはずじゃなかった」と打ちひしがれてしまうわけです。

ノースウェスタン大学のシュヴァント准教授の研究によれば、若年期ほど、よりよい将来を予想し、生活全体の満足度も今より高くなると見積もる傾向があります(※3)。若い時ほど今後の人生への期待値が高い状態にあるわけです。これが中年期の理想と現実のギャップを大きくする原因となります。

また、シュヴァント准教授は高齢期になるほど将来の生活全体の満足度を低く見積もる傾向があると指摘しています。このため、理想と現実のギャップも小さく、予想していなかった小さなポジティブな出来事が幸福度を引き上げる要因となるわけです。

(※2)Graham, C., Ruiz Pozuelo, J. Happiness, stress, and age: how the U curve varies across people and places. J Popul Econ 30, 225–264 (2017).
(※3)Schwandt, H. Unmet aspirations as an explanation for the age U-shape in wellbeing, Journal of Economic Behavior & Organization, 122, 75-87. (2016).