選挙が変われば女性も増えるはず

岸本さんは、選挙のやり方を変え、こうした政策議論を中心とした選挙を行うことで、女性や政治経験の少ない若者も、政治参加がしやすくなるのではないかという。「これまでの、3バンを中心とした、足でかせぐ『ドブ板選挙』を否定するつもりはありませんが、それだとどうしても、時間的にも体力的にも候補者1人に大きな負担がかかってしまいます。政策議論が中心になれば、そういった負担が少なくなりますし、生活者の視点が生きるので、女性も増えるはず」

岸本さんは最近の著書『私がつかんだコモンと民主主義』の中で、政治家に一番大切な資質は、自分とは違う立場の人たちのことを想像する力と、自分の知らない不都合を当事者から学び続ける謙虚さだと書いている。そして「他人への想像力が政治の仕事の本質だとすれば、女性に向いている仕事だと思います」ともいう。

ただ、日本では子育てや家事負担が女性に偏っていることが多く、それが女性の立候補への足かせになってしまっている。「私の場合は、家族と離れて日本で1人で生活しているので、そこを気にしなくてよかった。選挙が変わるだけでなく、性別役割分業を卒業し、ケアワークを共有して女性の負担が減らないといけない」と話す。

杉並区長選挙中の岸本聡子さん
写真提供=岸本聡子事務所
杉並区長選挙中の岸本聡子さん

家族の形は変わっていく

大学卒業後、東京にある国際NGOで働いていた岸本さんは、2001年にオランダ人パートナーとの間にできた子どもを出産して27歳でオランダに渡った。当初は結婚という形をとらず、パートナーとして一緒に住んでいたが、4年ほど経ったところで、家族で日本に移住することを検討。ビザなどの都合を考えて婚姻届けを出した。

「結局、その時は日本への移住はやめになりました。移住の話がなければ、結婚する必要は全然なく、パートナーシップのままでも相続、税制、親権などでも不都合は全くありませんでした。家族のあり方は、本当に人それぞれ。それに、同じ家族でも、時を経てその形は変容するものだと思います」と岸本さんは言う。

岸本さんの家族の形も、区長になったことをきっかけに、また大きく変化している。

上の息子は家を離れ、ベルギーで大学生活を送る。パートナーとは既に婚姻関係を解消していたが、以前は下の15歳の息子と3人で一緒に暮らしていた。岸本さんが日本に帰国した今、下の息子は父親とベルギーに住んでいる。