岸本聡子さんは7月11日に、杉並区では女性として初めての区長に就任した。岸本さんの当選の背景には、旧来の「ドブ板選挙」とは対極にある、政策議論を中心とした選挙戦があったという。ジャーナリストの大門小百合さんがインタビューした――。
岸本聡子杉並区長
撮影=プレジデントオンライン編集部
岸本聡子杉並区長

異例づくしの経歴の区長

選挙の2カ月前にベルギーから帰国し、出馬表明。187票の僅差で、3期務めた現職の区長を破って当選。2022年7月に杉並区長に就任した岸本聡子さんは、杉並区初、東京23区で史上3人目の女性区長となった。

就任後に東京・日比谷の外国人特派員協会で開かれた記者会見には、多くの外国人記者が詰めかけた。当選直後に外国人特派員協会に呼ばれて英語で会見する区長は珍しい。海外メディアの関心の高さの表れでもある。「日本には都道府県を含む約1800の自治体がありますが、その中で女性首長の割合は2%に過ぎません」と岸本さんは集まった記者たちに言い、こう続けた。「日本の政治が高齢の男性に支配されていることは、ジャーナリストであるみなさんもご存じだと思います。東京都の場合、区長の平均年齢は67歳。最も多いのは70歳代です」。岸本区長は現在48歳だ。

2022年7月11日、杉並区役所に初登庁する岸本聡子区長
写真提供=杉並区役所
2022年7月11日、杉並区役所に初登庁する岸本聡子区長

最初は無理だと思っていた

岸本さんは、2022年4月に帰国するまで20年近く、オランダやベルギーに在住。長く、オランダの政策研究NGO「トランスナショナル研究所(TNI)」で、環境と地域と人を守る公共政策に関する調査や、社会運動の支援を行ってきた。特に、水道や電気などの公共サービスの料金が民営化によって上がり、人権や人々の生活にどのような影響を与えているかという問題に詳しく、『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』の著書もある。「私は学者ではなく、アクティビスト(活動家)でリサーチャー(研究者)なんです」と言う。

帰国は選挙の2カ月前だったが、それまで日本の地方自治にまったく縁がなかったわけではない。日本の公共政策や地方自治にも高い関心を持ち、市民団体とのつながりも持ち続けていた。日本の地方議員や市民団体に頼まれて、セミナーの講師を務めることも多かったという。

今回の杉並区長選で立候補することになったのも、そうした、以前からつながりのある市民グループのメンバーから声をかけられたことがきっかけだった。団体は、杉並区の市民たちがつくる「住民思いの杉並区長をつくる会」(住民の会)。駅前の道路拡張計画、児童館の廃止など、3期続いた当時の田中良区長の下で、地域の声を十分聞かないままで計画が進んでいることに危機感を持った住民たちがつくった市民グループだ。

「6月に行われる杉並区長選に、現職の区長に対抗する候補を擁立しようと、1月に発足したものの、肝心な候補者がまだ決まっていないと言うんです。既にメンバーの中で政策は固まっていて、共感はできたし心は動かされましたが、日本に住んでいなかったし、区民でもない。最初は無理だと思っていました」