期限オーバーで高額な相続税を支払うことも

財産の分け方が決まらないと、さまざまな困ったことが起こります。

まず、故人の預貯金が凍結され、お金が引き出せなくなります。預貯金は、亡くなった時点で相続の対象ですから、誰かが勝手に引き出して使えないようにするのです。預貯金の仮払い制度によって最大150万円までであれば引き出せるようになりましたが、残りのお金を引き出すためには、相続の手続きを行う必要があります。

また、相続の放棄をする場合は、相続開始から3カ月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。相続の対象となる財産は、預貯金や不動産といったプラスの財産だけではありません。借金などのマイナスの財産、つまり負債も相続の対象なのです。万が一、マイナスの財産のほうが多かったら、相続をするのは損になってしまう可能性があります。

相続の放棄をすれば、借金を相続する必要はなくなります(ただし、預貯金や不動産などのプラスの財産も相続できなくなります)。しかし、財産の分け方が決まらず、3カ月以内に相続の放棄の手続きができなければ、自動的にすべての財産を相続するとみなされてしまいます。

さらに、相続税の申告期限は相続開始から10カ月以内です。10カ月以内に申告しないと、先に紹介した配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例(相続した自宅や土地の評価額を8割引にして、税額を減らせる制度)などが利用できないため、高い相続税を支払うはめになる可能性があるのです。

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親が健康なうちに「贈与」を視野に入れよう

こうしたデメリットを防ぐためには、親が元気なうちから相続について話し合って、どのように財産を分けるかを決めておくことが大切です。「後ろめたい」「縁起でもない」と思われるかもしれませんが、親も自分の死後、遺産争いをされるのは嫌なはずです。自分が定年を迎えることを想定して、相談してみましょう。

相続税がかかりそうなほどに財産があるならば、相続税の対策をしましょう。相続税は、財産が多いほど税率が上がり、税額も高くなってしまいます。そこで、生きているうちに家族や子どもに無償で財産を譲る「贈与」を行って財産を減らし、相続税を減らすのが基本です。

贈与には、贈与税がかかります。贈与税の課税の方法には、暦年課税と相続時精算課税があり、どちらを利用するかを選ぶことができます。

暦年課税は、1年間に贈与した財産の合計に対して課税する制度。1年間に贈与を受ける財産が110万円までであれば贈与税がかかりません。ですから、毎年110万円ずつ贈与を受ければ、相続税の対象となる財産を減らしながら、非課税で財産を受け取ることができます。誰でも使える手軽な制度です。

ただし、贈与を受けた日から3年以内に贈与する人(財産をあげる人)が亡くなって相続が始まった場合は、その財産には相続税がかかるというルールがあります。

一方の相続時精算課税は、累計2500万円までの贈与であれば贈与税がかからない制度です。2500万円を超えた分には20%の贈与税がかかります。しかし、暦年課税で仮に一度に2500万円超を贈与した場合の税率は40~55%ですので、暦年課税よりも贈与税の金額を抑えられます。

ただし、贈与する人が亡くなった場合、相続時精算課税で贈与した財産の分も含めて相続税を支払う必要があります。また、利用できる人にも制限があるうえ、一度相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻すことはできない点にも注意が必要です。