「カネと家事力の等価交換」

心理学者の小倉千加子が、現代の結婚とは「(男性の)カネと(女性の)カオの等価交換」と説いたのは、今から約20年前のこと。それと比較すると、金=経済力が男性から女性に移り、女性の顔(=容姿)の代わりに男性の家事力、というのは今後、新たな結婚の条件になり得るかもしれない。

それまでも、非正規雇用で働く男性が増えるにつれ、積極的かどうかは別として、女性の経済力をあてにする男性が若い世代を中心に増え始めている現象をつかんではいたが、当事者の男性がここまではっきりと言い切るのを聞いたのは初めてだった。

みるみるうちに料理の腕を上げた加藤さんは、19年、3年ぶりに合コンや独身男女が多く集まる異業種交流会、婚活パーティーへの参加を再開する。「思っていた以上に、料理ができる男は女性の受けがいいですよ」と報告してくれ、少しずつ自信を取り戻していったようだった。

テーブルを挟んで食事とワインを楽しむ、楽しげな若いアジア人男女のグループ
写真=iStock.com/AsiaVision
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「理想の女性」に出会えた

毎週のように出会いの場に出かけるうちに、「また来週、次があると思うと、なかなか決めきれない」などと停滞ぎみの時期もあったが、そうした経験も糧に、婚活再開から1年近く経った20年、31歳の時、メーカー総合職の同い年の女性と付き合い始めるのだ。友人の紹介で少人数で食事をした際、「この人を逃したら後悔する」と思ったという。勇気を出して連絡先を聞き出し、LINE(ライン)や電話のやりとりをするようになってからも、どのようにデートに誘えばいいかわからずにためらう加藤さんを、彼女がうまくリードしてくれ、交際に発展していったのだという。

「彼女は何事にも真面目で、頑張り屋さん。仕事にも一生懸命に取り組んで、将来は管理職を目指していて、心から応援したいと思ったんです。初デートで、後ろめたさを見せることなく、『家事は苦手だから、料理が得意な男性はありがたい』などと言ってくれて。それに、僕がそれとなく、経済力が劣ることを明かしても、『お互いに強みを分け合えばいいじゃない』なんて、笑い飛ばしてくれて。とても、うれしかったです。彼女こそ、今の『ありのままの自分』を受け入れてくれる理想の女性だと確信したんです」

少し照れくさそうに明かしてくれた。

しかしながら、「理想の女性」であるというその確信も、付き合い始めてからわずか半年余りで揺らぎ始める。彼女の何気ない、ある一言がきっかけだった。