まずは内科か婦人科へ

精神科医も、更年期障害や甲状腺機能低下症など、うつ病に間違えられやすい病気については知っていますが、婦人科や内科の病気については専門ではないので、見逃す可能性はあります。ですから、「うつ病かな」と思ったときは、まずは内科か婦人科で診てもらったうえで、紹介状を持って精神科を受診することをお勧めします。

特に更年期障害については、最初は更年期障害だったのが、これが引き金になってうつ病になることもあります。更年期障害の症状は人によってさまざまですが、不快な症状が仕事や日常生活に影響を及ぼすことも多いので、早めに婦人科を受診してほしいと思います。

コロナの後遺症「ブレインフォグ」

新型コロナウイルス感染症の後遺症の中にも、うつ病の症状に似たものがあることがわかってきています。

新型コロナの後遺症でよく知られているのは、咳や痰、息苦しさや胸の痛みなどの呼吸器症状や、味覚障害、嗅覚障害ですが、このほかにも、記憶障害や集中力の低下、不眠など、うつ病に似た症状があります。また、頭の中に霧がかかったような“ブレインフォグ”と呼ばれる症状もあります。集中力や思考力が低下し、考えがまとまらない、ものごとを決めるのに時間がかかる、記憶力が低下するなどのほか、頭痛がおきることもあります。こうした症状も、うつ病に似ています。

ブレインフォグは、ウイルスと戦うためのタンパク質が、脳に入って炎症を起こしているのではないかと考えられています。後遺症としてブレインフォグのある人の割合は、20代で10%台、60代以上で20%台といわれます。呼吸器機能障害は、どの年代も20%前後なので、ブレインフォグは年代差のある後遺症といえます。

残念ながらこうした後遺症については、現段階ではエビデンスのある根本治療の方法はなく、頭が痛ければ頭痛薬、不安や緊張があれば気持ちを落ち着かせる薬、など、その症状に合わせた対症療法しかありません。新型コロナ感染症発症から時間が経つにつれて症状がなくなっていく傾向はありますが、発症から半年や1年経っても、ブレインフォグの症状が残っている人もいるようです。

新型コロナの感染症は、もちろん感染による症状もつらいものですが、罹患りかんすることによる精神的なストレスも大きい病気です。罹患が引き金になり、ストレスから適応障害になり、うつ病に進行する可能性もあります。やはり、感染を防ぐことが一番重要なので、感染対策をしっかり行うことはもちろん、日ごろから生活リズムを整え、運動をして睡眠をしっかり取るようにしてほしいと思います。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。