やる気が出ない、落ち込む、夜眠れないなど、うつ病によく似た症状の病気がいくつかある。精神科医の井上智介さんは「特に、女性がかかりやすい病気2つが、うつ病に間違われやすい。『うつ病では?』と精神科に行く前に、まずは婦人科か内科を受診することをお勧めする」という――。
病院の窓際の机に座る医師と患者
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症状が似ている更年期障害

元気がなくて落ち込んでいる、何もやる気が出ない、疲れやすい……。こういった心身の不調を感じて「これはうつかもしれない」と精神科に来られる方は多いです。しかし診察してみると、うつではなく、別の疾患というケースも少なくありません。特に女性に多い疾患で、その症状がうつに似ているものには、更年期障害と甲状腺機能低下症があります。

更年期障害は、女性が閉経に向かうときにエストロゲンという女性ホルモンが減ることで、引き起こされる疾患です。人によってさまざまな症状があらわれますが、倦怠感がひどく、その結果、何もする気が起きない、イライラする、落ち込みがひどい、気分のアップダウンがはげしい、眠れない、などが挙げられます。

こういった症状は、確かにうつ病と似ていますが、のぼせる、顔がほてる、脈が速くなるなどの症状が出ることがあり、これらはうつ病にはないものです。

更年期障害は閉経前後の10年間、だいたい45歳から55歳までに起こることが多いのですが、30代後半から症状が出てくることもあります。

女性ホルモンの減少で起きる

そもそもエストロゲンは、生まれてから右肩上がりに増えていき、思春期の頃はさらに勢いを増して、35歳ぐらいまでずっと上り調子です。そして35、36歳を境に下り坂になっていきます。

体にとっては、今まで上がっていたものが下がる、つまりベクトルの向きが全く変わるというのは非常に大きな変化です。その変化を感じたときが、いちばん不調が起こりやすい時期です。これが30代後半から症状が出てくる理由です。

更年期障害かどうかを判断するには、エストロゲンが下がっていることをキャッチしなければなりません。

エストロゲンの数値は採血で診断できますが、更年期障害かどうかは一度の採血でわかるものではありません。更年期障害は、エストロゲンの分泌量が少ないために起こるのではなく、減少していることが原因で起こるからです。