最速で火がつく感情は「怒り」

【斎藤】経済も、刺激で関心を買うことが重視される「アテンション・エコノミー」になったと言われますが、政治や世論形成の場もアテンションで回るようになってしまった。

そうした傾向性は、今回のロシア・ウクライナ戦争でも、はっきりと感じます。一方では、フェイクニュースが溢れ、情報の判定が非常に難しくなっている。さらに、SNSを通じた「共感」が世論形成に及ぼす力の大きさを痛感します。

ウクライナは相当うまくSNSでの発信を操ることで、欧米から積極的な支援を引き出しています。しかし、戦争をめぐる政治的意思決定の背景にあるのが、SNSに操られる民衆の感情だとしたら、それは非常に危ういことです。

斎藤幸平氏
撮影=増田岳二

【堤】ええ、確かにSNSは世論形成装置としてはとても有効です。皮膚感覚的に拡散される、理性より瞬間の感情が力を持つ媒体なので、世論誘導にも使いやすい。最速で火がつく感情は「怒り」です。

ではこれは、民主主義にどんな影響を与えるでしょうか。例えば、私が保守で、斎藤さんがリベラルの政治家だったとしましょう。

かつては、お互いに信じるものが違っていたとしても、議論をぶつけ合い、合意できる部分を探り、それぞれが少しずつ歩み寄って妥協する、そんな場面がよくありました。時には第三局の少数政党の声に両側から力を貸して法案を成立させることも。

アメリカの政治史を見ても、この、歩み寄った中道政策というのは大概、万人のための法律になってゆくんですね。ところがGAFAMのビジネスモデルが加速させた「アテンション・エコノミー」は、政治の舞台から、中道を追い出してしまったのです。

もはや中道では支持を得られない

【斎藤】政治も含めて、現代の資本主義ではすべてが「ショー」になっていると私の友人の哲学者マルクス・ガブリエルは指摘しています。

【堤】全く同感です。全ては「ショー」、それも短いスパンで刺激を与え続けなければなりません。シリコンバレーでは、そのショーをいかにアップデートするかについて、連日戦略会議が開かれています。日本でも今、論理むちゃくちゃでも、スピーディーにバッサリものを言う政党や政治家の方が注目が集まってるでしょう? もはや中道では支持率を得られない。ちゃんとじっくり考えて語れる政治家でも、短く切り取られた部分だけが拡散されて、有権者が感情で反応して炎上のパターン。これ、ビジネスには便利かもしれないですが、民主主義にとってはまさに害悪です。