子どもや部下の育成というのは難しいものだ。褒めたり、叱ったり、期待したり……日々、試行錯誤している人は少なくないだろう。だが、日本随一のスポーツドクターである辻 秀一さんは「褒めることは、人をダメにしていく認知的なアプローチです」という――。

※本稿は、辻秀一『自己肯定感ハラスメント』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

母の手を握る小さなかわいい女の子
写真=iStock.com/Ольга Simankova
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「褒める」は、人をダメにする

「褒めて子どもを伸ばそう」という発想が蔓延しています。

「褒める」のは、結果に依存しがちですし、さらには、褒められる他者への依存にもつながります。「○○さんに褒めてもらうために、結果を出さないといけない」というような考えです。

それが、親や保護者になると、子どもはますますその考えの基に人格を形成していくことになるでしょう。それこそが親子でつくり出す自己肯定感呪縛ファミリーになります。

「褒める」は、実は人をダメにしていく認知的なアプローチです。怒りで人を動かすのも、褒めて人を動かすのも、相手を自分に依存させていくやり方です。あの人に怒られないように顔色をうかがい、あの人に褒めてもらうために頑張るという呪縛の構造です。自分らしく伸び伸びと、そしてイキイキと生きていくことにはなりません。

子どもに積極的に行いたい“最強の声かけ”

子どもや相手の自己存在感を育むすばらしい声かけは、感謝の言葉です。その人がどんな思考で、どんな感情で、そして、どんな行動でどんな結果であっても、まず「ありがとう」と言われている子どもは、間違いなく自己存在感を感じて育っていきます。もちろん、行動になるほど正誤も伴いますので、そこに指示の要素はありますが、行動にも「ありがとう」があれば、さらに自己存在感は磨かれるでしょう。

どんな結果でも、一生懸命やったり、目的を持って臨んでいたのであれば、それにも「ありがとう」の声掛け1つで、自己の存在につながります。結果はもちろん、OKなときもダメなときも、達成のときもダメなときもあります。しかし、それにかかわる自分自身の存在そのものや自分ができることに感謝されていれば、自分の存在を感じ、それをまた、自身の努力で全力を尽くそうとします。

それが、自己存在感に基づく内発的な生きる力です。存在そのものにありがとうの声かけが、自己存在感を大きく育てるのです。