離婚時の「年金分割」は老後の生活に大きく影響します。働きざかりの女性が気をつけるべきポイントは何でしょうか。ファイナンシャルプランナーの長尾義弘さんは「妻が高年収の場合、年金分割で夫にギャフンと言わせるつもりが、妻が言う羽目になることもあります」といいます――。

※本稿は、長尾義弘『私の老後 私の年金 このままで大丈夫なの? 教えてください。』(河出書房新社)の一部を加筆再編集したものです。

妻と夫が貯金箱を引っ張りあう
写真=iStock.com/SIphotography
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稼ぐ妻が年金分割を請求すると…

D子さんは、12年の結婚生活にピリオドを打つという決心をしています。ほとほと愛想も尽きたというのは、このことだと。もう顔も見たくはない、話したくない、一緒の空気も吸いたくないって気持ちになってしまったのです。

お金にはルーズで甲斐性がない夫です。夫よりD子さんの方が給料も上です。なんとか、その夫に「ギャフン!」って言わせて別れる方法はないかと模索していたところ、離婚経験のある先輩から、夫の年金も半分受け取れるということを聞き、その手を使えないかと考えたD子さんは、私のところに質問にやってきました。

離婚したときに配偶者の年金を最大50%分けることができる制度が「離婚時の年金分割」です。しかし私はこう答えました。「残念ながら、それを申請するとD子さん、あなたの年金が減ってしまいますよ」

その答えに、D子さんは、目を白黒させていました。

さて、なぜ私はそう答えたのでしょうか。その理由を解説しましょう。

3組に1組が離婚する現実

離婚の件数というのは、2002年からずっと減少傾向にあります。しかし、同居期間が20年以上の熟年離婚については、2000年近くまではずっと増加傾向にありましたが、最近はほぼ横ばいで推移しています。

とはいっても、年間の離婚件数は、約20万件です。婚姻件数をみると約60万件です。ということは、3組に1組は離婚しているということになります(厚生労働省「人口動態統計」より)。この数字をみるとけっして他人事ではありませんね。

そもそも、「離婚時の年金分割制度」とは何なのかを説明していきましょう。だいたい次のようになります。

婚姻期間中の厚生年金は、夫婦共同で支払っているとみなされるものです。たとえば、専業主婦の場合は、夫が毎月、厚生年金保険料を支払っていて、妻は実質的には支払っていません。それでもこの保険料というのは、夫婦共同で支払っていることになります。

共働き夫婦のケースも同じで、夫婦の婚姻期間中の厚生年金を合わせて、分割するということになります。分割の割合は話し合って決めることになりますが、多い方から少ない方へと付け替えることになります。