恨みを持つ自分を責めないで

親への怒りは、親への思いが薄いから生じるのではありません。記憶への対応が十分ではなかっただけのことです。「親への恨みを止められない」と自分を責める必要はないのです。

また、「記憶(恨み)」は薄らぐことはあっても、消去することはまず難しいと考えてください。上手に「上書き」するには、大変な時間と手間がかかり、よほど運に恵まれるか、腕の良いカウンセラーやセラピストのサポートがないと、なかなか達成されないでしょう。

恨めしい記憶を落ち着かせる唯一の対処法とは

ネガティブな記憶はあれこれいじるよりも、自分の関心を他にそらしてしまうほうが得策です。具体的には、親と距離を取る、親子以外の他の人間関係を充実させる、楽しい趣味に没頭する、などです。親関係の刺激が入ると、どうしても記憶にアクセスしてしまいます。その頻度を下げることで、記憶の棚に向かう回数も減らせるでしょう。と同時に、日々の生活の中で、ご自身の疲労ケアに努めることは大前提です。

Fさんはカウンセリングを進めるうちに、私が説明するメカニズムを理解し、体調管理、特に睡眠を第一に生活してみました。すると、次第に気持ちが落ちつき、お母さんにもあまり振り回されなくなったといいます。

さらにそのうえで、自分にとって大切なことは、お母さんのことよりも、子どもとの関係だと気づいたようです。今は子どもに安心してもらうためにも、自分ケアということを忘れないように生活しているそうです

下園 壮太(しもぞの・そうた)
心理カウンセラー

MR(メンタル・レスキュー)協会理事長、同シニアインストラクター。1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学卒業後、陸上自衛隊入隊。1996年より陸上自衛隊初の心理教官として多くのカウンセリングを手がける。自衛隊の衛生隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルケア、自殺予防、コンバットストレス(惨事ストレス)コントロールについての指導、教育を行なう。2015年に退官し、現在は講演や研修、著作活動を通して独自のカウンセリング技術の普及に努めている。著書に『寛容力のコツ』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)、『「気にしすぎて疲れる」がなくなる本』(清流出版)など多数。