「皇太子」と傍系の「皇嗣」の大きな違い

皇太子と傍系の皇嗣の違いについては、皇室典範の規定を見るとよくわかる。第11条第2項にこんな条文がある。

「親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王、女王は……やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる」(カッコ内も原文のママ)

この条文で注目すべきなのは、皇室会議の議決による皇籍離脱について、適用外とされているのが直系の皇嗣である皇太子と皇太孫“だけ”である点だ。言い換えると、傍系の皇嗣は例外扱いされないことを意味する。つまり皇嗣であっても、傍系の場合は皇室典範のルール上、皇籍離脱の可能性が否定されていない。したがって、次代の天皇として即位されることが確定している皇太子・皇太孫とは、お立場が大きく異なるのは明らかだ。

秋篠宮さまは即位を辞退されるのか

その上、秋篠宮殿下ご自身も即位はされないおつもりと拝察できる。

まず、ご本人がご高齢での即位を辞退される可能性について言及されたとの報道があった(朝日新聞デジタル、平成31年〔2019年〕4月20日20時20分配信)。「(天皇になることは)思ったことがない」とも。

即位辞退というのは、一見、突飛な報道のように受け取られたかもしれない。しかし、制度としては可能だ(皇室典範第3条。園部逸夫氏『皇室法概論』参照)。しかも、天皇陛下と秋篠宮殿下のお年はわずか5歳しか違わない以上、普通に考えて十分にありうる選択肢だろう。だから、これは極めて重大な報道だった。

しかし宮内庁は、これよりはるかに重要度が低いケースについてさえ、迅速かつ厳格に否定してきたにもかかわらず、秋篠宮殿下の即位辞退についての報道は、とくに否定しなかった。もし事実無根の報道だったら、決してそのまま放置することはなかったはずだ。

「皇太子」になる可能性もあった秋篠宮さま

次に、安倍内閣の時に上皇陛下のご退位を可能にする法整備をめぐって設置された「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の座長代理を務めた、政治学者で東京大学名誉教授の御厨貴氏の証言がある(朝日新聞デジタル、令和2年〔2020年〕11月8日、16時56分配信)

「上皇さまの退位に関する議論が開始された当初は、秋篠宮さまが『皇太子』と呼ばれる可能性もあった。だが、途中で政府高官から、秋篠宮さま自身が『皇太子の称号を望んでおらず、秋篠宮家の名前も残したい意向だ』という趣旨の説明があり、皇位継承順位第1位の皇族であることを示す『皇嗣』という称号に落ち着いた。秋篠宮さまの真意は今もわからない」

「政府高官」というのは主に内閣官房長官を指す。この場合はおそらく当時の菅偉義官房長官からの「説明」だろう。

2019年1月2日の一般参賀で日の丸を振る人々
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