奇襲的裏技で大量の株を取得したライブドア

まずフジテレビがめざしたのは「資本のねじれ現象」の解消です。つまり現在の力関係に見合った持ち株比率にすべく、「フジがニッポン放送株50%超を確保する」ことをめざしました。そこで採られた方法が「TOB(株式公開買付)」。つまり不特定多数の株主にニッポン放送株売却を呼びかけるというものでした。ところがライブドアはこれに対抗し、当時まだ規制が厳しくなかった東証の「時間外取引」という裏技(この裏技を使えば、当時は市場外で瞬時にして大量保有が可能だった)を使い、なんとニッポン放送株の35%を手に入れてしまいます。

グローバルな通貨と技術の概念
写真=iStock.com/metamorworks
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「このままではまずい!」そう考えたフジサンケイグループは、次なる防衛策として「新株予約権(あらかじめ定めた価格で新株を取得できる権利を既存株主に与える)」を行使することに。この権利は「ポイズンピル(毒薬条項)」とも呼ばれ、たとえばニッポン放送がフジテレビにこの権利を与えておけば、敵対的買収時すみやかに新株を発行でき、敵の保有比率を下げられるのです。

ただし、このやり方を行使できるのは「株主の長期的な利益保全のため」のみ。経営者の地位保全のためには使えません。本件では、そこを突いたライブドア側が裁判所に申し立てを行います。そして、それが認められ、東京地裁は発行差し止めの仮処分を決定しました。つまり、ポイズンピルは不発に終わったのです。

フジの窮地を救ったニッポン放送の奇策

さあ、フジサンケイグループは、いよいよ追い込まれてきました。そこで次に検討した防衛策は「第三者割当増資」です。これは「既存株主でない特定の第三者に向けての新株発行」のことで、確かにこの方法をとると発行数が増えるため、敵側の過半数買い占めは難しくなります。しかし既存株主にはメリットがないどころか、逆に株価が下がるだけなので、彼らの怒りを買ってしまうのは当然のこと。実際「検討中」というニュースが流れただけで、ニッポン放送の株価は下がってしまい、筆頭株主である村上ファンドは激怒しました。もっとも、この買収劇の黒幕は村上ファンドといわれていますので「怒ったふり」だとは思いますが。

そのほかにもニッポン放送は、「焦土作戦」(価値の高い資産や事業を売り払い、買収の魅力を損なわせる)として、子会社であるポニーキャニオンの株式売却なども検討したものの実施には至らず、ついにライブドアに株式の過半数を買い占められてしまいました。

しかし、ここでニッポン放送側が、盲点を突く奇策に出ました。自らが保有するフジテレビ株をSBI(ソフトバンク・インベストメント)に「貸株」として供与したのです。貸株にすると、設定次第で株主の権利(議決権や配当金の所有者)を動かせますので、結果的にライブドアは、フジテレビの経営には口を挟めず、ただ企業価値の低いニッポン放送を手に入れただけの形になりました。

これにてこの買収劇は手詰まりになり、両者和解して終了となりましたが、フジサンケイグループからすれば、SBIに「ホワイトナイト(白馬の騎士)」になってもらうことで、窮地を脱することができたわけです。