自己主張のスキルを身に付ける

コミュニケーションの面では、“アサーション”のスキルを知っておくとよいでしょう。これは、相手との関係を良好に保ったままで自己主張するコミュニケーションスキルの一つです。自分の心を守る大切なスキルなので、私たち精神科医やカウンセラーもすすめています。

自己主張の方法は、「アグレッシブ」「ノン・アサーティブ」「アサーティブ」の3種類に分けられます。アグレッシブは、攻撃的という意味で、相手よりも自分の考えを優先して攻撃的に自分の意見を主張するものです。ノン・アサーティブはその反対で、まったく主張せず、相手を優先して自分の意見を後回しにします。

そしてアサーティブは、相手と自分の意見を対等にみなし、相手の意見も聞きながら自分の意見も主張していきます。攻撃的なアグレッシブと、まったく主張しないノン・アサーティブの中間ともいえ、理想的です。

アサーティブな自己主張をすることを、アサーションといい、その効果的な方法の一つに、DESC法があります。アサーティブな自己主張をするためのステップを4つに分解したものです。

D=Describe(描写する)
E=Explain(説明する)
S=Specify(提案する)
C=Consequence(結果を伝える)・Choose(選択する)

「DESC法」で上手に断る

これは、どんな場面でも使えますが、特に断るときに便利です。たとえば上司から急ぎで資料の作成を頼まれたけれど断りたい場合を考えてみましょう。

まずD(描写する)では、「今、私は別の仕事をしています」と自分の状況を、事実に基づき客観的に表現します。次にE(説明する)で「お手伝いはしたいのですが、今は時間がなくてできないのです。申し訳ありません」と、断らざるをえない理由について説明します。S(提案する)では、「急ぎでは難しいのですが、納期を来週まで延ばしていただければできますが、いかがでしょうか」など、相手に考慮してほしいことを示したり代替案を提案したりします。

C(結果を伝える・選択する)では、自分が提案したことへの相手の答えに対して、どうするのかを伝えます。例えば、相手から「来週までは延ばせない」と言われれば、「では、引き受けることができません」という結果をスムーズに伝えることができます。また、相手が「来週まででもいいよ」となれば、「では、引き受けます」という結果を自分が選択するのです。

この4つのプロセスを踏めば、相手の主張を受け止めながら、こちらの主張もすることができますし、断るときも角が立ちにくいでしょう。

どんな立場の人でも、新しい環境でいきなり自己主張するのは難しいですし、おそらく、相手の言うことを優先して自分の意見を後回しにする、ノン・アサーティブになることが増えてしまうのではないかと思います。ただ、それだと仕事も生活も大きく変化してストレスのかかりやすい時期に、仕事を押しつけられたり、断り切れず抱え込んだりすることになり、メンタルヘルス不調を招く原因になってしまいます。

こういった方法を使って、イエス・ノーははっきりと言えるようにすると、それだけで気持ちがぐんと楽になるので、ぜひ身に付けるようにしてください。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。