オランダの王位継承権を持つプリンセス、アマリア王女は、18歳の成人を迎える前月の2021年11月に自伝を出した。現国王も、その前の女王も18歳で自伝を出しているが、それはなぜなのか。そしてオランダの王族と国民は、どのような関係にあるのか、長くオランダで暮らすライターの山本直子さんがリポートする――。
2021年秋、18歳の誕生日を迎える前のアマリア王女。ハウステンボス宮殿で ©RVD – Frank Ruiter
写真提供=オランダ王室
2021年秋、18歳の誕生日を迎える前のアマリア王女。ハウステンボス宮殿で ©RVD – Frank Ruiter

日本と対照的な「王室と国民との距離」

王族といえども「一人の人間」――。

オランダ国王の長女、アマリア王女の伝記『Amalia』(アマリア)を読むと、こんな考えが根底にあるのが分かる。同書は、昨年12月に日本の愛子さまとほぼ時を同じくして成人年齢(18歳)に達したアマリア王女の、これまでの歩みや人となりを国民に紹介する目的で出版されたもので、18歳のプリンセスの複雑な心境や心のよりどころが記されている。

注目したいのは、この書籍が王族へのインタビューで書かれている点だ。オランダでは、王室と国民との距離は、日本では考えられないほどに近い。

オランダ王室はベアトリクス前女王の時代から日本の皇室とも大変親しい。しかし、国民との距離を考える時、そのあり方は対照的でもある。

静養でオランダを訪れた天皇(当時は皇太子)ご一家と、オランダの国王一家(当時は皇太子)。中央で手をつなぐのが愛子さま(左)とアマリア王女(右)。オランダ、アペルドールンで、2006年8月18日撮影
静養でオランダを訪れた天皇(当時は皇太子)ご一家と、オランダの国王一家(当時は皇太子)。中央で手をつなぐのが愛子さま(左)とアマリア王女(右)。オランダ、アペルドールンで、2006年8月18日撮影

18歳の自伝出版はオランダ王室の伝統

「私が何を成し遂げたというの? アパルトヘイトを撤廃したネルソン・マンデラ氏でもないのに。なぜ今、本を出すの?」――。アマリア王女は、18歳の誕生日を目前に本を出版することについて、はじめは困惑していたという。

『Amalia』(アマリア)の著者クラウディア・デブライさんとアマリア王女 ©RVD –H.K.H. de Prinses van Oranje
『Amalia』(アマリア)の著者クラウディア・デブライさんとアマリア王女 ©RVD – H.K.H. de Prinses van Oranje

同書の企画は、政府情報局(RVD)によるもの。作家でコメディアンのクラウディア・デブライさんが執筆を依頼された。同書の冒頭でデブライさんは、アマリア王女を次のように諭したとつづっている。

「将来、私たちはあなたと大いに関わりを持つことになるでしょう。だから、私たちオランダ人は、その前にあなたのことを知っておきたいんです」

現在のウィレム=アレキサンダー国王も、その前のベアトリクス女王も、それぞれ18歳の時に本を出版してきた。国民に次世代の若い君主の素顔を紹介するのは、オランダ王室の伝統となりつつある。

2021年11月16日の、オランダ王室のツイート。著書『Amalia』(アマリア)について語るアマリア王女(右)と著者のクラウディア・デブライさん

 

オランダでは1983年に完全な長子相続が導入され、以来、男女に関係なく長子が王位を継承している。それまでの王位継承権は原則的に男性に与えられるもので、男子がいない場合のみ女子が王位を引き継ぐことになっていた。たまたま君主に息子がおらず、ウィルヘルミナ、ユリアナ、ベアトリクスと、3代にわたって女王が続いたため、オランダは以前から「女王陛下の国」のイメージが強い。

3人姉妹の長女であるアマリア王女は昨年12月7日、成人年齢に達したことで、王位継承者としてオランダ国務院のメンバーとなった。