高校教育のあり方や親の姿勢も重要

何のために合格したいのかではなく、合格すること自体に重点を置いてしまうのは大きな問題です。これは日本の教育が招いた弊害と言えるでしょう。いまだに偏差値の高い大学に合格することがよしとされ、そのため高校3年生になると試験科目以外は勉強しなくなる場合も少なくありません。

こうした風潮を変えていくには、親の姿勢も大切になってくると思います。子どもに「何のために勉強するの?」と聞かれて、親が「いい大学に入るため」としか答えられないようでは、子どもは受験期に大きなプレッシャーを抱えてしまう可能性があります。なぜ大学に行くのか、なぜ学ぶのか、本来の意義をきちんと伝えられていないからです。

例えば、子どもが小さい頃は一緒に図鑑などを見る機会があると思います。そのとき、子どもが興味を持ったものに対して「これが好きならこういう分野の勉強や職業があるよ」と伝えられたら、その後の目標が何となく定まってくるのではないでしょうか。

「これを勉強したいからこの学部に行きたい」「この学部ならあの大学が自分に合いそう」。本来、大学選びはこうした流れが自然だと思います。大学受験が近づいてきたときに、その子にとってよりよい選択ができるよう、小さい頃から好きなものへの興味を伸ばしてあげてほしいと思います。

合格発表の日、親は子にどんな言葉をかけるか

なお、今は大学に入学した後の選択の幅も広がってきています。教養学部での2年間を終えた後に専攻を決められる大学もありますし、最初に入った学部で「やっぱり違うことを学びたい」と思ったら転部できる場合もあります。

大学入学はゴールではありません。大事なのは、そこで何を学び、その後の長い人生にどう生かしていくかです。そう考える大人が増えて、若者や子どもたちにきちんと伝えてあげるようにすれば、受験期の子に過剰なプレッシャーがかかるような環境は少しずつ改善されていくのではないでしょうか。

ちょうど合格発表の時期です。子どもが合格したとき、あるいは不合格だったとき、親としてどんな言葉をかけたらいいか。かけられたい言葉は子どもによって違うものです。わが子をどれだけきちんと見つめてきたか、親としての姿勢が問われる機会でもあるでしょう。親としての自分を信じて、ぜひ、その子に合った言葉をかけてあげてほしいと思います。

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。