守られる「夫婦の身分の同一性」
ただし、例外が2つある。
その1は、「女子」がすでに他の皇族に嫁いでおられた場合。
その方やお子様は、夫(親王・王)と同一の皇族の身分とする。これは、女性皇族の場合、ご結婚相手の男性皇族の身分との“同一化”という要素が加わるためだろう。
その2は、皇族代表や三権の長などによって構成される皇室会議によって、特に“例外扱い”が認められた場合。この時には、お子様など(直系卑属)やその妻(妃)は、そのまま皇籍にとどまられる。
これは、皇族数の減少を防ぐとか、懲戒の連座的な適用を避けるといった、特別な事情がある場合に限られる。
しかも、皇籍を離れる男性皇族の妻(妃)は例外扱いされない。その妃がもともと皇族だった場合でも、夫とともに皇籍を離れることになる。それだけ、夫婦の身分が同一であることへの規範的要請は、より強いことを示す。
「象徴天皇」の基礎を支える土台
憲法2条には「皇位は世襲」との規定がある。にもかかわらず、それに“マイナス”に作用するはずの、親とともに直系卑属も皇籍離脱する規定を、皇室典範は皇族の家族の一体性を重んじる立場から、ことさら設けている。これは一体、どのような根拠によるものだろうか。
現在の皇室典範が制定される際、法制局(今の内閣法制局の前身)がまとめた「皇室典範案に関する想定問答」には、次のような説明があった。
「父祖と共に直系卑属は臣籍に入り、家を同じくし身分を等しくすることは人倫人情の自然といふべきである」
当時の法制局は「人倫人情の自然」、言い換えると社会通念を根拠としていた。たしかに、家族が身分・立場を同じくすることは社会通念上、当然のことと考えられる。
しかし社会通念だけを根拠に、最高法規である憲法の「世襲」規定の“足を引っ張る”ような制度を正当化するのは、いささか困難ではあるまいか。
ならば、他に根拠を求められるだろうか。
憲法は「天皇」について、「象徴制」と「世襲制」を定めている。そこから消去法で考えると、根拠はおそらく「象徴」規定ということになるだろう。
“象徴するもの”と“されるもの”の関係は、“代表するもの”と“されるもの”が互いに同質であるのに対し、「異質」であることが前提になる。その異質性を担保するためには、皇室を構成する皇族の家族の中に「国民(=象徴されるもの)」が混在することは、制度的に排除される必要があった。
つまり、皇族における「家族の一体性(=身分の同一性)」は、天皇の“象徴としての立場”を支える土台だったと考えられる。
そのことを念頭に置くと、政府が持ち出したプラン①②はともに、皇族における家族の一体性という象徴天皇の基礎となる価値を損なうものだ。
もちろん、愛子内親王殿下をはじめとする当事者の方々にとっても、不自然この上ない制度だろう。
政府が提案した、皇族と国民が“1つの世帯”を営むというほとんどブラックジョークのようなプランに対し、国会の良識がどこまで是正を迫ることができるのか。国民としても無関心ではいられない。
1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録」