ワクチンの失策、アフガニスタン撤退、上向かない景気

バイデン政権の不人気の理由はいくつもある。

まずはコロナ対策。夏からデルタ株が猛威を振るい始め、昨年9月、バイデン政権は、従業員が100人以上の企業に、従業員へのワクチン接種を実質義務化する政策を打ち出した。金融業界や飛行機会社などが従業員にワクチン接種を義務付けており、従わない場合は解雇などの厳しい措置を設けているところもある。ところが、この政策は民主党員、共和党員にかかわらず不評なのだ。

1月13日、アメリカ連邦最高裁は、「政府には企業にワクチン接種の義務を課す権限はない」としてこの施策を差し止めた。このため、スターバックスやゼネラル・エレクトリックなど、従業員への接種義務化を決めていた会社は、義務化を取りやめたという。

私たち日本人の記憶にも強く残っているのは、2021年8月のアフガニスタン撤退における大混乱だ。バイデン政権は、前のトランプ政権がタリバンと結んだ合意を実行しただけであったが、早急な撤退で1日に13人の米兵が死亡、数百人の米国人が一時置き去りにされた。また、現在も続くアフガニスタン国内の生活物資不足は深刻だ。

そして何と言っても、景気が思うように上向かないことへの不満は大きい。コロナ禍の経済損失に対する刺激策を打ち出し、インフラ投資法案も成立させた。しかし、物価高でインフレ懸念もあり、国民に豊かさの実感はない。多くのアメリカ人は生活を直接支える施策がほしいと思っているのに、バイデン大統領は「民主主義を取り戻す」といった概念的な話をするばかり、とのいら立ちもあるようだ。

トランプよりも分断を広げた

しかも、トランプ政権の下で顕著になったアメリカの分断は、バイデン政権下でさらに悪化しているようにも見える。なぜか?

これには、バイデン大統領の置かれた苦しい状況が影響している。バイデン大統領は、民主党や多くの無党派層から「アメリカに民主主義を復活させてほしい」という強い期待を持たれていた一方、トランプ氏の熱烈な支持者からは、「選挙不正で勝った大統領」というレッテルを貼られている。かなり難しい課題を背負ってスタートした政権だが、期待が高かった分、支持していた有権者は少々の成果では納得せず、落胆は大きくなる。

アメリカ政治と外交に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員によると、バイデン大統領の支持基盤を見ることで現在、分断が広がっている理由がわかると言う。

「バイデンの支持基盤は民主党中道で、民主党左派ではありません。でも、共和党に勝つためには、左派と中道をきっちりとまとめなければなりませんでした。僅差で選挙に勝った民主党をまとめ、党の支持基盤にアピールするためには、共和党やトランプを激しく批判しないといけない。その結果、バイデンはトランプと同じくらい、国の分断を深める発言をすることになったのです」と渡部氏は言う。

7月4日の独立記念日に星条旗をはためかせる車
写真=iStock.com/Michele Ursi
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